こんにちは、及川幸久です。前回のトランプチャンネルでは、トランプ政権が初めて出した政府予算案に関して、アメリカ議会とマスコミから大きな反発が出ているとお伝えしました。
反発の原因は、予算案が今までの政権とまったく違った内容になっているためです。何を変えたかというと、軍事費を大きく増額し、福祉を大きくカットしたためです。これでは、確かに反発が出ます。
トランプ政権の福祉政策とは?
今日は、トランプ政権の福祉政策について、見ていきたいと思います。実はトランプ大統領のTwitterは2つあります。1つは、トランプ氏が大統領になる前からずっと継続している@realDonaldTrumpというTwitterで、もう1つは、合衆国大統領としてのTwitterです。今日は、合衆国大統領としてのTwitterを見ていきます。
Our budget puts American families FIRST➡️https://t.co/Uai4tSqRnC pic.twitter.com/hIj3Bt7l7X
— President Trump (@POTUS) 2017年5月23日
「我々の予算は、家族が第一という予算なのです」
これだけです。「家族が第一」――この短い言葉に、予算案の特徴がよく現れています。
ミック・マルバニー 行政管理予算局長
トランプ政権で、予算案の政策を担当したのは、ミック・マルバニー予算局長です。マルバニー局長は、もともと共和党の下院議員でしたが、「ティーパーティ運動」の支持を受けていたため、いわゆる減税中心で、「小さな政府」論者でもあります。この人が、今回のトランプ政権の予算局長に大抜擢されたわけです。
予算局長というのは何をするかというと、大統領の意向を受けて、予算案を作ります。そして、その案を議会に提出し説明するわけです。
大統領は予算を作ることができません。そのため、予算を作るのは、あくまでも議会なのです。大統領としてできることは、予算の元となる考え方を、予算案として提出することです。
今回提出した予算案が、こちらです。
“A New Foundation for American Greatness”(偉大なるアメリカに向けた、新たな基礎づくり”というタイトルがついています)
この予算案を作ったのが、ミック・マルバニー局長です。
トランプ政権の予算案は、弱者切り捨ての予算?
彼は早速、議会に説明するために、上院の予算委員会に呼ばれています。そこで、この内容について、上院議員たちから質問を受けていますが、その中でも特に厳しい質問をしてきたのが、昨年の大統領選挙でヒラリー・クリントンと民主党の大統領候補争いをしていたバーニー・サンダース氏です。
バーニー・サンダース氏は、この内容を見て、「これは弱者のための福祉を切り捨て、富裕層のための減税ばかりやっている、とんでもない予算案だ。グロテスクなほど、不道徳な予算だ」と批判し、大変怒っていました。
そのため、マルバニー局長が答えようとすると、すぐに口を挟んで叱りつけるといった、ヒートアップしたやりとりがニュースになっていました。
では、このマルバニー局長が作った予算案は、本当に単なる弱者と福祉切り捨てるためのものなのでしょうか?
トランプ大統領が訴える貧困を救う手段
予算案の内容を見ると、トランプ政権が実施しようとしている福祉改革が、よく現れています。今までのアメリカの国家予算というのは、全体の約4割を社会保障関係という巨大な社会福祉国家の予算体系でした。確かに貧しい人たちは存在し、低所得者はアメリカ合衆国が提供する福祉予算と福祉サービスに依存して生きている人たちがたくさんいます。
では、この貧困から人々を救うには、どうしたらいいのか。その答えは、「仕事を与える」ことです。仕事さえあれば働ける人は、たくさんいます。そうした人たちを職場に戻してあげるための予算なのです。
フードスタンプ改革
その目玉政策が、フードスタンプ改革です。フードスタンプというのは、低所得者向けに食事を無料で提供するという、福祉政策の中でも一番大きな政策です。これを改革するということです。
※参考 フードスタンプ(Wikipediaより)
フードスタンプ (Food Stamp) とは、アメリカ合衆国で低所得者向けに行われている食料費補助対策。公的扶助の1つ。現在の正式名称は「補助的栄養支援プログラム」(SNAP, Supplemental Nutrition Assistance Program)。形態は、通貨と同様に使用できるバウチャー、金券の一種。一般のスーパーマーケットでも使用できる。対象は食料品であり、タバコやビールなどの嗜好品は対象外となる。
フードスタンプは、まさに低所得者向けの制度なのですが、「単に働きたくない人たち」が集まっているというのが、その実態でした。
ジョージア州は、独自にフードスタンプ制度を受けられる条件として、「最低限の仕事をすること」という条件をつけるという改革しています。そうしたところ、大勢いたフードスタンプの受給者のうち、数千人がやめていき、もっとほかに簡単に受けられる制度に流れて行きました。
この状況を見て、働きたくない人がフードスタンプに来ているということが分かったわけです。
社会福祉制度の本当の目的
そこで、マルバニー局長の予算案は、ジョージア州の改革と同じように、フードスタンプを受けられる人たちの資格を厳しくしました。また一方で、では働いてみようという人が実際に働いてみて、収入が得られるようになったら、政府はそれを評価し、働き始めた人にはインセンティブとして、もし子供がいる場合は一定の金額の養育費を給付する。こんな内容も含んでいるのです。
このフードスタンプ改革によって、10年間で約2000億ドル(約20兆円以上)のお金が浮くことになります。浮いた分の予算で、本当に福祉政策が必要な低所得者のための予算を確保することができるようになります。
マルバニー局長は、予算案について以下のように述べています。
「この予算によって、今まで働いていなかった人たちが勇気を持って仕事を始めてみる。それでもうまくいかなくて、実際には仕事がだめになってしまう人もいるかもしれない。それでも、その下にはセーフティネットという安全ネットが敷かれているので、安心して仕事をするという一歩を踏み出していけるようになる。これこそが、社会福祉制度の本当の目的ではないか」
こうした予算案の内容を見るに、単に福祉カットの予算だとは思えません。「これからは、働かないと損だよ」という予算になっていると思います。
そして、「じゃあ働こう」という人たちのために、仕事については、トランプ政権が責任を持って、これから10年間、2500万人分の新規の雇用を増やすと約束しています。
福祉政策を経済成長につなげる
さらに、マルバニー局長は重要なことを述べました。
「この福祉政策によって働く人が増えたら、それが経済成長につながる」
福祉政策が、経済成長につながる?――これは、まったく新しい発想です。
そしてこれは、日本にとっても参考になると思います。「福祉政策が、経済成長につながる」そのようなことができる秘密は、雇用を増やすこと。
Job Creationです!