【及川幸久　海外を分かり易く解説】誤解ないように！トランプは中国を許していない？

 
こんにちは、及川幸久です。

トランプ大統領は就任以来、「選挙期間中の公約と、大統領になってからとでは、言っていることがコロコロ変わっているじゃないか」と、よく批判されています。そのうちの一つが、対中国の政策です。

 

トランプ大統領の中国に対する姿勢

トランプ大統領は、選挙期間中に中国に対して、非常に厳しいことを述べていました。特に貿易面において、「中国はアメリカとの貿易を蹂躙している。中国を為替操作国に指定する」と述べていましたが、これは取り止めました。

しかし最近になって、トランプ政権が中国に対して、厳しい姿勢を取ろうとしている“シグナル”が出ているのです。

今日はまず始めに、トランプ大統領が大統領になる以前の12月4日のTwitterを見てみましょう。中国に対してこのようなツイートをしています。

Did China ask us if it was OK to devalue their currency (making it hard for our companies to compete), heavily tax our products going into..

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2016年12月4日

their country (the U.S. doesn't tax them) or to build a massive military complex in the middle of the South China Sea? I don't think so!

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2016年12月4日

「中国は、我々アメリカに対して、貿易面で自国通貨を弱くし、自分たちに有利な条件にしている。それをアメリカに事前に許可をとっているか？」

「南シナ海の真ん中で大規模な軍事施設を作っているが、それもOKか？そんな許可を取っているのか？　私はそうは思わない」

 
ここで2つのことを述べています。１つは、米中の貿易問題。そしてもう1つは、南シナ海の中国の侵略についてです。

 

アメリカ軍による「航行の自由作戦」

この南シナ海の問題に対して、アメリカは「航行の自由作戦」で対抗してきました。中国は南シナ海に人工島を造って、「それは中国の領土だ、だからそのまわりは中国の領海だ」と主張しています。

それに対して、「いや、それは中国の海ではなく公の海だ」ということを示すために、アメリカ海軍が南シナ海を通過することで「航行の自由作戦」を行っていました。

 

北朝鮮問題におけるアメリカと中国の取引

しかし、トランプ氏が大統領になってからは、喫緊の問題が朝鮮半島・北朝鮮の問題になったため、トランプ大統領は習近平とdeal（取引）をしました。

「北朝鮮に対して、中国が貿易面でプレッシャーをかけてくれるなら、アメリカはこの貿易問題、中国を為替操作国に指定するという問題には目をつぶろう。そして同時に、南シナ海の「航行の自由作戦」も実施しない。」

実際に、「航行の自由作戦」は実施されていなかったのです。ところが、4月、アメリカの太平洋軍司令長官であるハリー・ハリス氏――日系人ではじめて司令長官になり、四つ星の偉大なる軍人になっている人です――このハリス長官が、4月にアメリカ議会に呼ばれて、このように証言しています。

「確かに一番大きな問題は北朝鮮の問題なのですが、それだけではなく、中国の脅威こそがもっと大きいのだ」

 

北朝鮮問題よりも大きい中国の「脅威」

そして、アメリカは「航行の自由作戦」を今は実施していないが、近く再開するということを予告していたのです。ハリス長官は、問題に関して、実にわかりやすく説明していました。

「今、アジア太平洋というのは、極めて複雑な状況に陥っている。だから我々アメリカはまず、北朝鮮の問題、朝鮮半島の問題を解決するために、“パートナー”として中国に頼らざるを得ない。同時に、南シナ海の問題に関しては、中国を“侵略者”として扱い、中国に対して厳しく警告しなければいけない」

そして、もう一つ重要なことを言っています。

「この南シナ海の問題というのは、中国が単に人工島を造って、そのまわりを中国の領海にしているというような『領土問題』ではない。中国がしていることは、この人工島に本格的な滑走路を造り、たくさんの戦闘機を用意して、その戦闘機を保管する格納庫を造り、レーダーを建て、多くの軍人をそこに駐在させることのできる兵舎を建て、本格的な軍事基地を造っているのだ。これは、軍事侵略である。単なる領土問題ではない」

さらに、

「これが中国の軍事侵略であるとしたら、この中国の侵略を押し戻すために、今アメリカは「航行の自由作戦」を行っているが、アメリカだけではなく、日本も含めて関係しているすべての国が、この中国を押し戻すための作戦に加わってもらわなくてはいけない」

と述べています。

 

再開された「航行の自由作戦」

そして、ハリス長官の予告どおり、5月24日にアメリカは「航行の自由作戦」を再開しました。南シナ海のスプラトリー諸島のミスチーフ島のあたりに、中国が人工島を造っているわけですが、その中国の人工島からわずか20kmのところを、アメリカ海軍の駆逐艦が通行したのです。

オバマ政権時代は、この「航行の自由作戦」を何度か行っていました。しかし、トランプ大統領になってから行っていなかった――と言われていますが、これは真実ではないのです。

 

オバマ政権時代に行われた「無害通航」

実は、オバマ政権時代にやっていたのは、本当の「航行の自由作戦」ではなく、Innocent Passage、いわゆる「無害通航」というものです。

「無害通航」は、決して軍事作戦ではなく、普通の船として、ある国の領海を何もしないので通航させてもらう。これはまったく無害なので、だからその国に事前に通告しなくてよいという、国際法でもあります。また、無害通航は、事前に通告しなくてよいのですが、かわりにその領域を高速で通過しなくてはいけません。

しかし、これは逆に、やってはいけないことです。この無害通航を行ったということは、何を意味するのか。それは、南シナ海は、中国の領海なので、無害通航としてアメリカの船が通行したということ。

これは、「この地域は中国の海ですよ」「そこにあるのは、人工島ではなく本当に中国の島であって、中国の領土なのだ」ということを、暗に認めていることになるのです。

実際には、国際裁判所である常設仲介裁判所は、この問題に対して一つの判断を出し、中国が主張しているのは人工島であって、本当の島ではない。そこは中国の領土でも領海でもないのだということを、国際裁判所に当たるところがはっきりと言っているのです。

 

トランプ大統領から中国に送ったメッセージ

これに対して今回、トランプ政権が5月24日に本物の「航行の自由作戦」を行ったのです。

また航行中には、中国の人工島のすぐ近くで、軍事演習も実施しています。これによって、アメリカは中国に向けて、「この海は決して中国の海ではない。公の海なのだ」ということを、明確に示したメッセージを送ったわけです。

北朝鮮問題において中国は、北朝鮮にプレッシャーをかけて、アメリカの味方をしているような「ふり」をしていました。しかし、実際には北朝鮮と中国との貿易量は、以前よりも増えていました。

中国は、嘘をついています。

中国を信用してはいけません。

決して誤解のないように。トランプは、中国を許してはいません。