こんにちは、及川幸久です。
トランプチャンネル第30回で、トランプ政権の福祉政策について採り上げました。トランプ大統領が就任してから、初めての政府予算案。その中で、福祉改革として「低所得者向けの福祉サービス」をまったく新しい発想で、「仕事をする」、「働くほうに導いていく」という福祉政策を実行しようとしていることについて、ご紹介しました。
そちらをご覧いただいた方から「納得できない。結局、福祉サービスを受けられなくなる人が増えるだけじゃないか」というご意見をいただきました。こうしたご意見はすごくありがたいです。
トランプ政権の福祉政策を別の角度から見てみる
そこでもう一度、トランプ大統領の福祉政策について、別の角度から掘り下げてみようと思います。
今日ご紹介するTwitterは、2012年頃のトランプ大統領が就任する4年前のツイートです。
Obama our Welfare & Food Stamp President, is praising himself for expanding welfare http://t.co/cAOUnJT0 He doesn't believe in work.
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2012年11月2日
「オバマ大統領、我らが福祉とフードスタンプの大統領は、福祉の政策を拡大したことを誇りに思っている。そして彼は、働くことの意義をまったく信じていない」
福祉も大切だが、「仕事の意味」というのはもっと大事じゃないかということを、ずっと強調しています。この信念を、ツイートから4年後に大統領になることで、国家予算として形にしました。それが今回の予算なのです。
トランプ政権予算の中心概念
トランプ大統領の予算案が発表されて以来、ワシントンの人々にものすごく嫌がられています。私が受けている感じとしては、「反対されている」というよりも、「トランプは嫌な政策を出してきたな」「嫌がられている」という感じです。
何が問題なのでしょうか。トランプ大統領の予算の中心的概念は、「向こう10年間で政府の負債をなくす」こと。これはバランシングと言いますけれども、政府に入ってくるお金と出ていくお金を比べると、圧倒的に出ていくお金(使っているお金)の方が多くなっており、この政府赤字を、これから10年でなくしていくことが目的です。
トランプ政権による予算カット
特に問題なのは、8年前に大統領になったオバマ前大統領です。オバマ氏が大統領になった8年前、アメリカ政府の負債は約10兆ドル(約1000兆円)でした。今の日本政府の負債とほぼ同じだったのです。
しかし、オバマ大統領在任中の2期8年間に、約20兆ドルに倍増してしまいました。そこでトランプ政権が実行しようとしていることは、政府予算の大幅な削減です。政府の各省庁の予算の割り振りを、2割~3割の大幅カットを行っています。
例えば、環境保全庁は3割カット。通常、環境保全庁の長官になる人は、環境保護を主張する人をトップにしますが、トランプ政権では、環境保全の予算をカットする人をトップにしています。また、国務省ですが、こちらも予算を3割カットしました。
フードスタンプ制度とは
では、福祉はどうでしょうか。福祉は単なるカットではなく、内容を変革しました。例えば、アメリカの福祉として非常に有名なのが、「フードスタンプ」という制度です。フードスタンプは、年収が少なく生活することが苦しい人たちに、一定のクレジットカードのようなカードを与えることで、一定額分の食糧品をスーパーで買うことができるという食事の提供です。
しかし、フードスタンプは、実は仕事をしようと思えばできる人たちが、単に怠け者で仕事もせずに、この制度を利用することで、自分の食事代がもらえる――そういう人たちが集まる制度になってしまっていたのです。
まじめに働いて、フードスタンプの予算も含めて、政府に税金を払っている人たちからみれば、まことに不公平な状態になっています。その結果、オバマ政権時代の8年間に、フードスタンプの受給者は32%も増えてしまいました。
福祉政策の改革ポイント
そこで、トランプ政権の福祉改革ポイントは、大きく分けて2点です。
まず1つ目は、働ける体であれば働いてもらう。そして、「働くこと」をフードスタンプの受給条件として入れました。
もう1つは、フードスタンプの予算の負担を、連邦政府から一部を州政府に移すことです。現在の制度は、実際に運用しているのは全米各地の州政府なのですが、予算はほぼすべて連邦政府、国から出ています。そのため、使っている側からすれば、自分たちで運営しているがお金は全部国から出ているので、どうしてもやり方が適当になってしまうのです。
しかし、一部でも自分たちが出すことになれば、州政府も本気になって丁寧にやるようになるでしょう。
以上のような2つの改革を、ワシントンの政治家たちは嫌がっているのです。
ワシントンがトランプ政権予算を嫌がる理由
議員たちは、フードスタンプを受ける条件に「働くこと」が入り、そして連邦政府の予算が減らされることを嫌がっています。
なぜなら、日本もアメリカも一緒ですが、政治家は自分たちが使える予算を減らされるのが、一番嫌なのです。この問題は、民主党も共和党もまったく一緒です。
しかし、トランプ政権が実施しようとしていることは、議員の立場ではなく納税者の立場から見て、「予算をもっとも効率的で効果的なものにすること」こそが目的なのです。
フードスタンプ制度は、働かない人を制度?
例えば実例として、アメリカにメイン州があります。ここでは、既にフードスタンプの運営方法として、働くことを条件に入れているのです。
その条件は、「州政府が提供する職業訓練もしくは地域へのボランティア活動を、週にわずか6時間だけやりなさい。」という条件にしました。結果どうなったか。
フードスタンプに加入していた人で「働こうと思ったら働ける人たち」のほぼすべての人たちが、フードスタンプをやめていきました。
結局、これは何を表しているかというと、フードスタンプを利用している人たちの大部分は、ただ働きたくないから働かなかっただけだったということです。
もし収入があれば、このサービスは受けられないが、働かないことによって収入がないので「サービスをタダで利用していただけの人たち」が、たくさん存在したのです。
同じようなことは、日本でも起こっているのではないでしょうか。納税者の立場からすれば、メイン州のような改革を全米ですることによって、多額の税金が無駄に使われずに済むようになります。
トランプ政権の試算では、向こう10年で800億ドルが、無駄にならずに済むだろうと言われています。
トランプ政権の福祉政策は、立ちあがる勇気を与えてくれる
結局、この政策は福祉の中に“自助努力”の精神、“セルフ・ヘルプ”を入れ込んだものなのです。
たしかに健康面では働ける体であったとしても、さまざまなことがあって心が折れて働けないことは、誰の人生にでもありえることです。
でもそんな時には、こうした福祉が支えてくれる。でも、ただ支えるだけではなく、折れてしまった心を励まして、もう一度立ちあがって仕事をしようという気にさせてくれるのも、福祉の役割です。
福祉の中に”セルフ・ヘルプ”の精神を入れること――これはまったく新しい福祉の発想です。