【政務調査会】首相による消費増税表明について

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.18

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.18
2018.10.28

首相による消費増税表明について

安倍首相は、今月15日臨時閣議で2019年10月に消費税率を8%から10%へ引き上げることを改めて表明しました。このタイミングでの増税表明は、企業に軽減税率の導入に向けた準備を促すなどの狙いがあるとみられますが、そもそも、消費増税は経済に大きな打撃を与え、“健全財政”の観点からも実施すべきではありません。以下、ポイントにまとめます。

 
 

そもそも、国の債務1,100兆円は自民党政権により積み上げられてきたもの

  • 消費増税に対する議論は「財政健全化や社会保障の充実に向けては増税が不可欠」との考え方が前提となって進められていますが、そもそも、国の債務が1,100兆円という天文学的な額に及んでいるのは、政府・自民党によるこれまでの失政、バラマキ政治によるものに他なりません。
  • 健全財政に向けては、覚悟をもって取り組むべきなのは言うまでもありませんが、借金をこしらえた政府が国民にツケを支払わせようとしている事実については、見過ごすことはできません。

 

消費増税の中止と、税率5%への引き下げを

  • 本格的に成長軌道に乗っていない今増税を行えば、成長率を鈍化、あるいはマイナスに転じさせることにつながり、かえって財政状況を悪化させることにつながるでしょう。
  • 日銀は、来年10月に予定されている消費税率10%への増税を行った場合、2020年度の家計負担の増分が2.2兆円になり、前回の増税時の4分の1程度になると試算していますが(注1)、消費増税のインパクトを決して過小評価すべきではありません。政府はリーマン・ショック級の経済危機が起こらない限り増税を実施するという立場ですが、消費増税こそリーマン・ショック級の経済危機のトリガーになりかねないと言っても過言ではなく、早期のデフレ脱却、中長期の経済成長を実現するためには、消費増税の中止と、税率5%への引き下げこそ行うべきです。
  • また、政府は、増税による税収の一部を幼児教育・保育の無償化への財源に充てるとしていますが、増税・バラマキは日本を「大きな政府」へと向かわせ、国を一層の停滞に直面させることにつながりかねません。消費減税こそ全ての家計に恩恵をもたらせ、最も望ましい福祉と言えるのです。
(注1) 日本銀行「経済・物価情勢の展望(2018年4月)」より

 

“健全財政”に向けて

  • 財政の健全化に向けては、国際標準として用いられている“累積債務残高/GDP(GDPに占める債務残高の割合)”をわが国も財政健全化の指標としながら、経済成長による自然増収を達成して中長期的な財政再建の達成を図るべきです。成長に向けては、消費税増税の中止と税率5%への引き下げなどといった大胆な減税政策、徹底的な規制緩和を行うことはもとより、交通インフラ、新たな基幹産業など、経済成長に資する分野への大胆投資を実行する必要があります。
  • 同時に、政府の“バラマキ”に当たる無駄な財政支出については削減を図り、 “メリハリある財政”を行う必要があります。行政機関のスリム化に向けた組織・事務事業の抜本的な見直しなどを含め、今こそ“健全財政”に向けて、議論を進めていくべきでしょう。

 

経済対策の罠

  • 安倍首相は増税表明の際、「あらゆる政策を総動員し、経済に影響を及ぼさないように全力で対応する」と述べ、増税が個人消費に与える影響を抑えるための万全の対策を急ぐよう指示しました。今回、経済対策として幼児教育・保育の無償化のほか、軽減税率の導入、中小店舗でキャッシュレス決裁を行った時のポイント還元、住宅購入時のポイント還元・住宅ローン減税の拡充などが検討されています。
  • このような一連の経済対策が行われるのであれば、「何のための増税なのか」というのが率直なところでしょう。期間限定の経済対策については、駆け込み需要とその後の反動減を少しでも抑えようという狙いがあると思われますが、消費増税の影響は中長期に及ぶため、増税前後の短期的な現象が経済に与える影響を少しでも抑えようとするのは筋違いと言えます。
  • いずれにせよ、バラマキによる増税や複雑な税制の導入は、経済活動の自由の領域を狭めさせるほか、経済の歪みにもつながっていき、国の発展の阻害要因そのものとなります。やはり、小さな政府・安い税金を心掛けるとともに、シンプルで公平な税制の構築を志向すべきです。
  • 以下、補足点を列挙します。

 

軽減税率

  • 増税で標準税率が10%になるのに対し、軽減税率は、酒類や外食を除く飲食料品、定期購読の新聞については税率を8%に据え置くとする制度です。
  • 「スーパーやコンビニで買う食料品を持ち帰れば軽減税率が適用されるが、イートインコーナーなど店内で飲食する場合には適用されない」といった例があるように、どのような商品や消費形態が軽減税率の対象になるかが非常にわかりにくいと指摘されています。(コラム1参照)
  • そのほか、標準税率、軽減税率のどちらを適用するかを恣意的に判断できるようになるという意味で、政府は新しい権限を手にすることになり、この点にも非常に大きな問題を見出せます。政府による「恣意性」を排すには、消費税は一律5%に戻すのが得策と言えるのではないでしょうか。
  • また、消費税は事務手続き上、非常に複雑な税であると言われています(注2)。現在、軽減税率に対して準備を行っている中小企業は約8割に留まるとされていますが(注3)、来年、税率変更に加えて軽減税率が導入されることになると、企業は一層の負担を強いられることになります。
  • 同様の制度を実施している欧州では、すでに課題が大きいとして制度を廃止すべきとの議論もあるようです。今、日本があえて軽減税率を導入する合理的な理由は見当たりません。
(注2)企業が行うすべての取引に消費税がかかるわけではないため、企業は消費税の納入に際しては、仕入れ、売上含めた全取引を「課税取引」「非課税取引」「不課税取引」に分類しなければならない。企業にとって多大な事務的負担を要している。
(注3)日本商工会議所「中小企業における消費税の価格転嫁および軽減税率の準備状況等に関する実態調査(第5回)」(2018年9月28日)より

 

キャッシュレス決裁時のポイント還元

  • 商店街の小売店など資本金の少ない中小店舗を対象に、クレジットカードなどのキャッシュレス決済を行った際に、期間限定で2%のポイント還元を行うとする支援策も検討されています。
  • ここには“キャッシュレス経済”の普及促進の狙いも垣間見られますが、クレジットカードや電子マネーなどに対応するレジを導入するための企業側の費用負担は大きいものです。政府が設備投資を行う企業に補助を行うとしても、そこに血税を使う正当性はあると言えるでしょうか。
  • キャッシュレスになじみのない高齢者などを考慮して「プレミアム付き商品券」を発行すべきとの意見も政権与党にはありますが、これも本質的な議論とは言い難いものがあります。

 

防災・減災対策

  • 増税による需要喚起策の一環として、防災・減災対策に向けたインフラ整備費用が、第2次補正予算案、2019年度当初予算案に計上される見込みとなっています(注4)。
  • わが国では、高度経済成長期に建設されたインフラが“使用期限”を迎えており、修繕・補修の必要に迫られていますが、これまで、社会保障の財政予算が拡大する中で公共投資に対する予算が削減される傾向にありました。
  • 防災・減災対策などをはじめとするインフラ整備に対して積極的な姿勢がとられていることについては評価できますが、インフラは国の資産になるほか、経済成長にもつながるものであることから、その整備に向けては増税実施の有無にかかわらず、国債発行をためらうことなく積極的に実施すべきと考えます。
(注4)今月15日には、西日本豪雨への対応など、今年相次いだ災害からの復興関連の歳出を中心とした第一次補正予算(9,356億円)が閣議決定されている。

 


 

<コラム1>「ここが変だよ・軽減税率」

(1) スーパー・コンビニのイートインコーナー

近年、サービスの一環としてイートインコーナーを設けるスーパーやコンビニが増えています。軽減税率制度の導入によって、例えば弁当を買うとき、お客さんがそれを持ち帰えれば「食料品」扱いとみなされて適用税率が適用され、イートインで食べれば「外食」扱いとして標準税率10%が適用されます。これによりお店の会計が複雑になるほか、お客さんが品物を持ち帰るか、イートインコーナーで食べるかを店員が確認しなければならなくなることなどから、企業側は大きな負担が強いられることになります。財務省は既存のイートインコーナーに「飲食禁止」と明示すれば、全ての飲食料品に軽減税率を適用する方針を示していますが、これでは何のためにお店がイートインコーナーを設けたのかわかりません。経済の実態から見た時、シンプルな税制を実施することこそ求められているのではないでしょうか。

 

(2) 牛丼チェーン店

牛丼チェーン店で、牛丼を店内で食べれば「外食」扱いとみなされ税率10%が適用され、持ち帰れば「食料品」扱いとなり軽減税率8%が適用されます。そうすると、増税後は牛丼を持ち帰る人の方が多くなることが予想されます。こうなれば、お店は牛丼のテイクアウト用の容器をこれまでよりも多く用意しなければならなくなり、牛丼チェーンの関係者からは、年間数千万~数億円のコスト増になるのではないかと危惧する声もあがっています(注5)。このように、軽減税率の導入は思わぬところで経済の歪みを生じさせ、負担増を余儀なくされる企業が出てくることもあるのです。

(注5)東洋経済オンライン「外食・小売りが苦悩、「軽減税率」導入の波紋」(2018年7月30日)より

 

(3) 線引きのあいまいさ

弁当をイートインコーナーで食べるか持ち帰るかによって適用税率が異なるということに留まらず、軽減税率適用の線引きがあいまいでその基準が不確かな例は枚挙にいとまがありません(注6)。税率の違いは消費者の行動に大きな影響を与えます。軽減税率で恩恵を受ける企業とそうでない企業との間の不公平感を、政権与党はどう説明するのでしょうか。軽減税率の線引きが政治の一存で決まるのであれば、一生懸命に努力している企業はたまったものではありません。「軽減税率を適用するかどうかを決められる」という新しい権力の創出で、今後、特定の政治家や官僚に媚びを売る業界が多く現れないとも限りません。

(注6)軽減税率と標準税率適用の例
国税庁「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」より作成

 

<コラム2>「消費増税に伴う販売価格表記について」

政府は、2019年10月に予定されている消費増税引き上げ時に、①商品の価格表示を「総額表示」とすること、②「消費税還元」をうたう値引きセールを解禁することを検討するとされています。

① 商品価格の「総額表示」
  • 13年10月1日に時限立法の消費税転嫁対策特別措置法により、商品価格の表示方法について、これまでの総額表示方式ではなく税抜きの本体価格での表示が認められることになりました。しかし国は、あくまでも期限付きの特別措置であるとの立場をとっており、19年10月時に予定されている増税時にあらためて「総額表示」に切り替えることが検討されます。
  • 総額方式について、「小売業に税額を吸収させ、消費税の税負担を薄くしようとする思惑があるのではないか」と危惧する声があるとともに、「この方式に戻すことで小売業者が値上げを行っているかのような印象を消費者に与えかねない」といった指摘がなされています(注7)(注8)。また、「総額表示に戻されることで、今までは特例扱いされてきた端数の積み上げ分も納税しなければならなくなり、負担も大きくなるのではないか(注9)」との懸念もなされています。小売業者などへの配慮から、現行の本体価格での表示を恒久的に認めることも検討すべきでしょう。

 

② 消費税還元セールの解禁
  • 今回の消費増税に併せ、「消費税還元セール」を解禁することも検討されるようです。前回増税時に、駆け込み需要とその反動で消費が大きく冷え込んだことを踏まえ、今回の増税時には小売業者による価格設定の自由度を高め、値上げ時期の幅を広げようとする狙いがあるとみられます。ただ、これについては、スーパーなどが商品を納入する企業に値下げを迫るのではないかなどといった懸念があるのも事実です(注10)。
(注7)食品新聞18年5月15日付「政府の総額表示推奨に『強い憤り』新スーパー協、復活阻止へ他団体と連携」より。
(注8)食品新聞18年5月21日付「消費税問題 政府が総額表示推奨へ重大なデフレリスク再来スーパーなど反発必至」より
(注9)日本食料新聞18年1月3日付「新春特集第2部:軽減税率 税別表示の恒久化を実務者の準備は本格化」より
(注10)テレビ東京HP「『消費税還元セール』解禁に反対」(http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/news/post_155873)より

以上

 

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