【政務調査会】出入国管理法の改正に対する基本的な考え方について

幸福実現党政務調査会ニューズレターNo.19

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.19
2018.11.15

出入国管理法の改正に対する基本的な考え方について

今月2日、政府は出入国管理法改正案を閣議決定しました。来年4月の施行に向けて、13日より衆院本会議で審議が始まっています。幸福実現党政調会は、労働力不足の解消などに向けては、適切な環境整備を行った上で、外国人労働者の積極的な受け入れを行うべきと考えます。以下、基本的な考え方をまとめます。

 

政策上の「転換点」と言われる今回の改正

 現在、わが国における外国人労働者数は17年10月末時点で127万8千人となり、この10年で約2.6倍もの増加を記録しています。これまで、就労目的の外国人の在留資格は、大学教授や弁護士などを含め、基本的には「専門的・技術的分野」に限られていましたが、今回の改正で、一定の技能を必要とする「特定技能1号」と熟練した技能が必要な「2号」の在留資格が新設されることになります(図1)(図2)。これにより、事実上「単純労働」にあたる在留資格が認められることになり、今回の改正が政策上の大きな転換点になると言われています。

 新たな在留資格を取得するための能力基準については、基本的な日本語の理解度を測る試験と、所管省庁が定める技能試験に合格することなどで確認されることになっています(注1)。試験について、「能力基準があいまいになるのではないか」といった指摘があるほか、ある省庁からは「制度の全体像が見えない中、新試験(の導入)を間に合わせるのは難しい(注2)」との声も挙がっています。

(注1)技能実習生として3年以上の経験を積んだ外国人は「1号」の試験が免除されることになっている。
(注2)西日本新聞2018年11月10日付「『在留資格特定技能』どう見極める 筆記?実技?省庁新試験手探り」より

 

(図1)新たな在留資格

特定技能1号 特定技能2号
主な概要 相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格 同分野の属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
家族の帯同 できない できる(配偶者、子)
在留期限 通算で上限5年(原則期間ごとの更新) 更新可能、条件を満たせば永住も
その他 ・技能実習生(最長5年)から特定1号に移行した場合、最長で10年の滞在が可能となる(注3)。

(注3)ただし、永住権取得に必要な就労期間としては算入されない見込みとなっている。

 

(図2)外国人労働者数の推移

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内閣府「外国人労働力について(平成30年2月20日)」より。(各年10月末現在の統計)。

 
「身分に基づく在留する者」とは、「定住者(主に日系人)、「日本人の配偶者等」、「永住者(永住を認められた者)」等を指す。「技能実習」とは、途上国から人材を受け入れ、日本の進んだ技能や技術を習得させることで、途上国の発展に寄与することを目的とする「技能実習制度」により就労している者のこと。同制度は本来、国際協力が目的となっているが、企業の人手不足を補う制度として用いられるケースが散見されている。「特定活動」はEPAに基づく外国人看護師、介護福祉候補者、ワーキングホリデー、外国人建設就労者、外国人造船就労者等からなる。「資格外活動」は、留学生のアルバイト等からなり、本来の在留資格の活動を阻害しない範囲(1週28時間以内等)で報酬を受ける活動が許可されている。

 新在留資格「特定技能」の対象として検討されている14業種・・・介護業、外食業、農業、漁業、飲食料品製造業、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、ビル・クリーニング業、宿泊業、自動車整備業、航空業、建設業(2号含む)、造船・船用工業(2号含む)。

 

深刻な人手不足に直面する産業界

 今回の改正の背景には、団塊世代が大量離職したことで、産業界が深刻な人手不足に直面していることが挙げられます。

 建設業では、東京オリンピック・パラリンピックの開催やインバウンド需要によるホテル新設などに伴う建設ラッシュにより、単純労働者に対する労働需要が増大しています。現時点でも既に多くの外国人が就労していますが、今後も高度成長期に整備されたインフラの老朽化対策などにより需要が拡大すると見込まれています。また、外食産業においても人手不足が著しく、一部のファミリーレストランが営業時間の短縮や24時間営業廃止などの対応を余儀なくされているケースが相次いでいます(図3)。積極的な外国人労働者受け入れ策により労働供給を拡大させることは、人手不足解消に向けた有効策になるのではないでしょうか。

 一方で、今回の改正案について野党から「事実上の移民政策につながるのではないのか」といった指摘がなされています。その際、安倍首相は再三「そうではない」との旨を答弁していますが、そもそも、移民を受け入れること自体を否定的に捉える必要はないでしょう。今後、日本がさらなる人手不足の深刻化に直面し、それが中長期的にも国の潜在成長率(注4)の押し下げ要因となる状況を踏まえると、外国人労働者の受け入れを積極化させることについては正当性が見出せます。

 尚、人手不足の解消や中長期的な潜在成長率の引き上げに向けては、幸福実現党が当初より訴えていたように、生涯現役社会を到来させるべく高齢者が生きがいを持って働き続けられるような環境整備や、ロボット開発のさらなる推進を行うべきでしょう。

(注4)潜在成長率とは、労働者(労働投入量)、機械などの設備(資本投入量)、技術進歩(全要素生産性)により、その国が持つ本来の経済の実力を測る尺度。

 

(図3)各職業の有効求人倍率(2018年9月)(常用(含パート))

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*日本経済新聞(電子版)2018年11月13日付「日本に127万人 データでみる外国人労働者」、厚生労働省「一般職業紹介状況(平成30年9月分)」より

*有効求人倍率は、「(有効求人数)/(有効求職者)」で算出される、労働市場の需給状況を表す指標。現在、わが国では有効求人倍率が増加傾向にあるが、これは、有効求人数は増加傾向、有効求職者数は減少傾向にあることによる。ここにも人手不足が深刻化していることが現れている。

 

残された主な課題

外国人労働者の受け入れ体制の整備

 ただ、受け入れの条件をあいまいにしたり体制が十分でないままに、容易に大量の外国人受け入れを許してしまうことになれば、社会が分断されたり治安が悪化することも懸念されます。

 外国人が急増することを機に日本のアイデンティティが失われるような事態は何としても防ぐ必要があります。外国人の受け入れに対しては、適正な条件を設けることが必要でしょうし、外国人に対する日本語教育や、日本の文化や考え方への理解を促進するための環境整備をどう進めるかについて、しっかりと議論を行う必要があります。

 また、優秀な外国人労働者を呼び寄せることは国力の増強につながるという観点からも、労働環境の整備、生活面での一定のバックアップなどを行うことは必要不可欠と思われます(注5)(注6)。

(注5)新設される出入国在留管理庁の長官には、外国人労働者に日本人と同等の報酬や教育訓練の場などが保証されるよう、受け入れ機関に対して指導・助言を行う権限が与えられることになっている。同庁は、現在の入国管理局(法務省)を格上げしたもので、外国人の受け入れについて総合的な調整を行うとされているが、省庁のスリム化の観点から、格上げは本当に必要不可欠なのかということ、外国人労働者に対し一定のフォローを行うに際して組織体制はどうあるべきなのかということについて、本来は徹底した議論が必要であろう。
(注6)12日、野党6党は技能実習生を対象とした合同ヒアリングを開催。労働環境について実習生から「午前6時半から深夜0時まで働かされ、半年間休みがなかった」「残業代は自給300円だった」などといった声が上がり、外国人労働者に対する待遇改善について問題提起されている。

 

社会保障制度

 同法案については、社会保障制度に関する課題もあります。例えば、健康保険の場合、日本で働く外国人が増えれば、現行の健康保険制度の下で海外在住の扶養家族が増えて、医療費が拡大するのではないかなどといった懸念が残されています。日本の今後の人口動態を見た時、長い目で見れば移民受け入れなどにより「支える側」の人口を増やす必要はありますが、今回の改正を機に、社会保障関連の歳出が大幅に増大するような事態は避ける必要があります(図4)。

 

(図4)入管法改正に係る社会保障制度について

現行制度 議論の焦点(一例)
健康保険 ・国籍に関係なく、海外に住む扶養家族も保険を使える。 ・保険を使える扶養家族を、日本国内に住む人に限る方向で検討されている。
・一夫多妻制の国から来日する者については、一人のみを健康保険の対象として認め、二人目以降は認められない方向となっている。
出産育児
一時金
・国籍に関係なく、健康保険の被保険者や扶養家族が日本国内外で出産した場合に支給。 ・支給対象の扶養家族は、日本に住む人に限られるのか。
生活保護 ・原則、日本国籍を持つ者とその配偶者、永住者、定住者、永住者の配偶者等が対象(注7)。 ・日本国籍を持たない外国人労働者は対象外となるか。
雇用保険 ・国籍を問わず、日本在住者は加入し、保険料を支払う。失業時には失業手当を支給。 ・在留資格が切れて帰国した場合、失業手当を全部受け取れない可能性があることが指摘されているが、どのような方向となるか。
年金 ・国籍を問わず、日本在住者は加入し、保険料を支払う。外国人が受給開始前に帰国した場合は脱退一時金を支給。 ・年金受給には保険料を原則10年間納めなければならず、不正受給は起こりにくいとされているが、より詳細な制度設計はなされるか。

*2018年11月8日付朝日新聞朝刊4面「外国人の社会保障論戦」等より
(注7)外国人に対する生活保護のあり方、経緯等については、「江夏正敏の闘魂メルマガvol.124『外国人の生活保護って、良いの悪いの?』」参照

 

中長期的には移民政策に門戸をひらけ

 外国人労働者の受け入れが日本人労働者に対して悪影響を及ぼすのではないかといった観点より、政府は人手不足の状況に応じながら業種ごとに受け入れ停止の判断を行うとしていますが、その基準については明確になっているわけではありません。状況次第で一度受け入れた外国人を帰国させるわけにもいかないこともあり、その調整や制度設計については慎重に行うべきでしょう。

 ただ、人口(とりわけ労働力人口)が国の経済成長の重要な規定要因の一つとなっていることを踏まえ、昨今のわが国の人口減少傾向は国力低下に直結することは言うまでもありません。こうした現実が到来することを忌避し、日本は確かな人口増政策を打ち出すべきタイミングにあると言えます。わが党は、世界を牽引し新たな日本モデルを形成すべく、当面は「人口1億5千万人」国家を目標とし、出生率の改善策や、将来的には毎年50万人規模の移民受け入れ策を視野に入れるべきと考えます。同時に、移民拡大や人口構造の変化に適した環境整備を図るべきでしょう。

以上

 

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