【政務調査会】万一の場合には、自衛権を根拠に邦人救出を

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.22

 

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.22
2019.9.12

 

万一の場合には、自衛権を根拠に邦人救出を

 

香港情勢が今も緊迫化していますが、前回のニューズレター(No.21)では、現行憲法下でも香港沖まで自衛隊を派遣することは可能であることをお伝えしました。来月1日は中華人民共和国建国の70周年にあたりますが、それまでに北京政府が武力鎮圧に動かないとも限りません。こうした事態が生じた場合に、自衛隊は邦人保護に向けてより踏み込んだ動きはできないものでしょうか。当稿では、その可能性を追求します。

 

他国では、「自国民の救出」は当たり前のように行われている

 海外に滞在する自国民の生命が、自然災害、治安悪化、あるいは武力紛争が起きるなど危機的な状況に直面する場合、その安全確保のために、米国、ドイツ、フランス、英国など先進諸国は、「在外自国民保護活動(Non-combatant Evacuation Operation; NEO)」として、その安全確保に努める活動を行っています。

 2011年に発生したリビアでの反政府デモを契機とした内戦において、ドイツや英国が軍隊による在外自国民の退避活動を行ったことなど、その事例を挙げると枚挙にいとまがありません。

 

他国に見る自国民保護の根拠

 NEOを行う根拠については、各国により様々挙げられていますが、その一つが、独立国家であれば当然有する権利とされる「自衛権」です。

 米国や英国は、海外に滞在する自国民がその国によって適切に保護されない場合には、国連憲章第51条における個別的及び集団的自衛権によってこれを保護するとしています。

 フランスでは、人道的介入(*1)のために軍隊を他国領域に派遣することは、「派遣先国家への侵略には当たらず、国連憲章第2条4項で禁じられる『武力行使』にも該当しない例外である」との解釈がなされており、NEOは国際法上においても正当化されるとの立場です。

 このように、他国では自衛権などを根拠として、自国民の救出が行われているのです。

(*1)人道的介入は、「主権国家は国内に居住する者を保護する義務(Responsibility to Protect)をそれぞれ負っているものの、その責任が果たされない場合には、国際社会がこれを代わりに果たさなければならない」という考えに基づいており、このことは不干渉原則に優先するとされています。

 

「自衛権」に自ら制約をかける今の日本

 諸外国では、自衛権行使などを根拠としてNEOが行われています。しかし、日本は他国と違って「自国民の保護」を自衛権行使の根拠とすることはできないとしており(*2)、自衛権行使の根拠を「国家への攻撃」のみに限定しています。したがって、日本は、自衛権を行使するという意味では、NEOを行うことができないと考えられます。

(*2)昭和48年9月19日、衆議院決算委員会において吉國法制局長官は、「在外自国民の生命・財産に対する侵害・危険は我が国に対する武力攻撃には当たらず、その保護のための武力行使は、国際法上の当否は別として、わが国憲法上は自衛権の行使としては許されない」との旨、答弁しています。

 しかし、「在外邦人への攻撃は国家への武力攻撃には該当せず、邦人救出のために自衛隊派遣を行えない」などとする考えは、国家主権の一部を放棄し、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(憲法13条)を侵害するものとして、憲法違反に当たると言えるのではないでしょうか。

 このことは、自衛隊法についてもまた然りでしょう。日本では、自衛隊法84条の3の下、自国民保護の目的で自衛隊を派遣する場合、相手国の同意がいるなどの3要件(*3)が満たされなければならないとされています。しかし、こうした要件が満たさない場合には、自衛隊派遣は認められないことになります。

(*3)「自衛隊法」84条の3では、外国で起きた緊急事態によって生命や身体に危険が及ぶ日本人を守る目的で自衛隊を派遣する場合、①相手国と戦闘状態にならないこと、②日本人保護を行うために自衛隊を派遣することについて相手国が認めていること、③安全に保護活動ができるよう相手国との連携や協力が見込まれること、という3つの要件を満たす必要があります。

 

日本も自衛権行使を根拠に、邦人保護のための自衛隊派遣を

 以上のようなことを念頭に置いて、日本でも他国にならって「自衛権行使」を根拠に邦人救出のための措置が講じられるようにすべきでしょう。

 また、一般的には「災害派遣」もNEOを行う対象に含まれています。今の法律下でも自衛隊が災害派遣を行うことは可能であり(*4)、香港の今の危機的状況というのは、まさに習近平氏らによる「人的災害」そのものであると捉えれば、「災害派遣」として自衛隊を派遣することも検討に値するでしょう。

(*4)2001年、米ハワイ沖で愛媛県立宇和島水産高校の実習船えひめ丸が米海軍原子力潜水艦に衝突されて沈没した際には、県の要請により海上自衛隊の潜水艦救難艦「ちはや」が派遣されました。

 本来、国家国民を守ることのできない憲法9条については、第2項「戦力の不保持」「交戦権の否認」を削除するなど全面改正すべきです。また、憲法改正までの間は、現行憲法前文にうたわれた「平和を愛する諸国民」とは言い難い中国、北朝鮮のような国家に対しては、憲法9条の適用を除外するものとすべきです。

 加えて日本は、自国民の保護ばかりでなく、香港市民などの救済も念頭に置くべきであり、アジアのリーダーとして、他国と協力体制を整備しその調整役を務めるべきと考えます。

 

ポイント

  • 他国では、海外に滞在する自国民が災害や紛争が生じるなどして危機的な状況に陥った場合、独立国家の普遍的な権利である「自衛権」を根拠に、軍隊による在外自国民の保護が当たり前のように行われている。
  • 日本は自衛権に自ら制限をかけていることにより、自衛権を根拠としては邦人保護を行うことはできないというのが実態。また、現在の自衛隊法下で自国民保護を目的に自衛隊を派遣する場合には、相手国の同意が必要になるなどの要件を満たす必要があって、大きな制約がかけられている。こうした状況は、「生命、自由、及び幸福追求に対する国民の権利(憲法13条)」を侵害していると言える。
  • また、香港の今の危機的状況というのは、まさに習近平氏らによる「人的災害」そのものであると捉えれば、「災害派遣」として自衛隊を派遣することも検討に値する。
  • 国外に滞在する国民が危機に直面する際、その生命・安全が確保されるよう、日本も自衛権を根拠として邦人保護のための自衛隊派遣を認めるようにすべきである。
  • 香港に自衛隊を派遣する際、人道上の観点からも、自国民に留まらず香港市民なども救済の対象に含めるべき。また、日本はアジアのリーダーとして、他国と協力体制を整備してその調整役を務めるべき立場にあると考える。

 

Q&A

Q. 保護の対象は?

基本的には自国民を保護することが優先されると考えますが、人道的な観点からも、香港市民はもとより香港にいる外国人も対象とすべきと考えます。

Q. 相手国の同意は必要ないのか?

NEOを実施する際、相手国からの同意を取り付けることは、その基本的な前提条件となりますが、自国民を守るとの立場から、相手国からの同意が必ずしも必要ではないとの解釈があるのも事実です。

Q. 一般論として、当該国が戦闘地域であっても軍隊は派遣できるのか?

基本的に、当事国が戦闘地域かどうかについては、諸外国では限定されていないというのが実態です。むしろ、危ない地域だからこそ投入される意義があると言えるでしょう。

Q. 在外邦人救出に対する民間の役割とは?

NEOを行うにあたっては、軍の投入を余儀なくされる状況になるまでは、輸送手段を含め民間による手段が優先的に用いられることが一般的です。

 

参考

  • 橋本靖明他「主要先進国における在外自国民保護の取り組み」,防衛研究所紀要第17巻第1号(2014年10月)
  • 橋本靖明他「軍隊による在外自国民保護活動と国際法」, 防衛研究所紀要第4巻第3号(2002年2月)
  • 川西晶大「『保護する責任』とは何か」,国立国会図書館調査及び立法考査局レファレンス(2007年3月)

以上

 

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