【政務調査会】自民党政権に足りない“攻め”の「経済安全保障」

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.27(2021.9.28)

幸福実現党政務調査会
2021年9月28日
No.27

 

自民党政権に足りない“攻め”の「経済安全保障」

 

米中新冷戦が進展するにつれ、経済安全保障が脚光を浴びるようになりました。2021年の自民党総裁選では、候補者4人のうち、2人が経済安全保障に関する政策を公約に掲げました。幸福実現党は、立党以来、安全保障の重要性を訴えており、こうした動き自体は歓迎すべきものです。

しかし、自民党が訴える経済安全保障は、主に自国の先端技術や軍事機密の防衛や、重要な産業の振興にとどまっています。すなわち、日本経済全体の中国依存は、それほど問題視されていません。自国の経済を特定の国に依存させることは、国家の生殺与奪の権を与えることに等しく、経済安全保障の問題そのものです。

自民党政権が、そうした根本的な経済安全保障を語ることができない理由は、その背景にある思想的限界に見るべきです。中国の間違いを明らかにする「正義」を示してはじめて、“攻め”の「経済安全保障」としての中国包囲網を、積極的に取り組むことができるようになるのです。

 

自民党政権に足りない“攻め”の「経済安全保障」_02

 

1. 自民党の唱える「経済安全保障」とは

「軍事力を使わない戦争」が始まっている

「中国が、アメリカが創り上げた世界秩序に挑戦している」というのが、現在の国際情勢です。そうした覇権争いは、最終的に、軍事的な戦争に発展するケースが非常に多いですが、その前段階として、両者は、あらゆる手段を使って、自国に有利な状況をつくり出そうとします。

特に中国は、積極的に他国から軍事機密や先端技術を盗み出そうとしてきました。それも、政府機関ではない民間企業が、通常の経済活動を装って、スパイ活動をしています。例えば、2018年に中国スマートフォン大手のファーウェイが米トランプ政権によって制裁対象となりましたが、背景には中国のスパイ活動への懸念があります。

 

経済を通じて、安全保障上重要な「情報」や「技術」を流出させない

日本も、こうした状況は、決して他人事ではありません。技術大国日本にとっても、自国の重要な情報や技術を流出させないことが喫緊の課題となったわけです。今や、民間レベルの技術や情報が他国に流れ、軍事利用されるのが世界の現実です。

そのため、近年、「経済安全保障」がにわかに脚光を浴びるようになりました。例えば、2021年の自民党総裁選では、高市早苗氏が先端技術の海外流出を防ぐため、「経済安全保障包括法」を公約に掲げました。

 

「重要な産業」の他国への依存をやめる

経済安全保障のもう一つの論点は、サプライチェーンです。サプライチェーンとは、製品の供給網のことです。昔は、国内で素材を加工し、製品化まで完結するのが一般的でしたが、現在は、複数国をまたがって製品を完成させることが当たり前の時代になりました。それは、競争力を高めるために、最も安上がりの方法を企業が追及した結果です。

しかし、国をまたいだサプライチェーンの在り方は、有事のときに非常に弱いものとなります。これは、今回のコロナ・パンデミックで浮き彫りとなりました。特に昨年、マスクや防護服などの医療品は海外依存度が高いため、しばらく入手困難な状況が続いたことは記憶に新しいでしょう。

医療品の他には、半導体が重要な戦略物資として挙げられることが多いです。半導体は、電気を使うあらゆる製品に用いられ、「産業のコメ」と言われています。数年前までは、半導体の設計だけをして、実際の製造は、海外に委託する「ファブレス経営」が最先端でした。工場を持っているとコストが高くなり、儲けが減ってしまうからです。しかし、米中対立やコロナ・パンデミックによるサプライチェーンの混乱から、各国がこぞって国内誘致を進めているのが、現在の状況です。

経済安全保障では、こうした重要産業のサプライチェーン見直しも範疇に入ります。重要な戦略物資を、有事の際に入手できなくなれば、安全保障が立ち行かなくなるからです。21年の自民党総裁選で岸田文雄氏が掲げた「経済安全保障推進法」では、まさにそうした観点が含まれています。

 

自民党の経済安全保障への取り組みは、日本において極めて画期的なこと

自民党が正面から、こうした動きを見せるようになったことは、極めて異例です。数年前までは、安全保障で票を取るというのは、考えられない時代でした。それが、自民党総裁選で、複数の候補者が積極的に掲げるようになったのは、隔世の感があります。

幸福実現党は、立党以来、安全保障の重要性を訴えてまいりました。「政権与党が、一部の安全保障政策を重視するようになったこと」は歓迎すべきです。

しかし、自民党の掲げる、こうした経済安全保障の取り組みには問題もあります。ここでは、その問題を指摘することで、あるべき経済安全保障の考え方を示します。もちろんこのことは、自民党の掲げる経済安全保障を否定するものではありません。それは、極めて重要で、疎かにしてはならない政策が含まれており、明日にでも実行すべきものです。しかし、経済安全保障として、それでは不十分であるため、その点をここでは論じます。

 

2. 自民党版「経済安全保障」の問題点

①日本経済の中国依存を改める内容では全くない

想定するのは、あくまで「重要な産業」の中国依存

自民党の掲げる経済安全保障は、半導体などの重要な産業の国内回帰やサプライチェーンの見直し、あるいはその振興を目指しています。この点は非常に重要です。

一方で、それは「日本経済が中国依存の下に成り立っている」という経済的な構造にまで踏み込むものにはなっていません。これは、自民党の2020年12月における「経済安全保障」に関する提言を見ても分かります(*1)。

その提言では、経済安全保障の対象を「重要な産業」に事実上絞っています。自民党は同提言の中で、経済安全保障戦略の基礎となる考え方として、2つの概念を掲げました。そのうちの一つは「戦略的自律性」です(*2)。戦略的自律性は「わが国の国民生活及び社会経済活動の維持に不可欠な基盤を強靭化することにより、いかなる状況の下でも他国に過度に依存することなく、国民生活と正常な経済運営というわが国の安全保障の目的を実現すること」とあります。一見、申し分が無いように見えますが、これは裏を返せば、「国民生活及び社会経済活動の維持に不可欠でない基盤は強靭化しない」ということになります。この思想は、産業の取捨選択につながります。

 

「中国人観光客の爆買い」は自民党版「経済安全保障」の範疇外

自民党は取捨選択した重要な産業のことを「戦略基盤産業」と呼んでいます(*3)。そうした産業として、通信、交通、食料、医療、金融、物流、建設等を挙げています。

ここには、観光業は含まれていません。つまり、「ある地域の経済的活況が、中国人観光客で成立し、それに依存しなければ、経済が立ち行かなくなる事態」は問題視されていません。

あくまで、個別具体的に見ており、経済全体を俯瞰する視野は無いと言えます。

 

「経済的に依存する相手には逆らえない」という原則が想定されていない

「恒産なくして恒心なし」(『孟子』)という言葉もありますが、どんな生業であれ、ある者に生計を握られれば、その者に反対することは困難になります。つまり、「重要な産業か、そうでないか」は関係が無いのです。

国家安全保障上、重要な産業の防衛は当然なすべきことですが、それだけで経済安全保障が全うされるわけではありません。この問題と、「わが国がG7で唯一、中国のウイグルでの人権弾圧に対して非難できなかったこと」は無関係ではないはずです。

 

「重要な産業」と定義すれば、かえって相手の裏をかかれる

ここで、もう一つ指摘したい点は、中国の戦略思想です。その原点として「孫子の兵法」を挙げることができますが、孫子の兵法と、経済安全保障は極めて相性がよいものです。孫子の兵法の生みの親と言われる孫武が育った、中国の「斉」という国は、古代でありながらも、商業活動が活発でした。こうした事情から、「『孫子兵法』が戦争と経済との関係性を明確に論じた史上初めての兵法書であり、しかも経済的な考慮によって、大戦略的な志向性をもったものである」(*4)とも論じられます。

中国のそうした戦略思想は、「兵は詭道なり」という言葉に代表される通り、相手の裏をかく「騙し合い」が基礎にあります。言い換えれば、常に相手の存在を想定した思想の枠組みであるわけです。

つまり、相手が「重要な産業」を定義するのであれば、今度は「重要でない産業」に取り入り、自身に有利な状況をつくり出そうとするのです。こうした観点を疎かにしてはいけません。

 

②経済安全保障の名目の下、日本経済の衰退を招きうる

「経済安全保障」と言えば、国家主義的な政策が許されるようになる

経済安全保障を考えるにあたって、注意すべきことには、安全保障を名目にした“何でもあり”の国家介入も挙げられます。当然、守るべきものは守るべきですが、度が過ぎれば、「規制でがんじがらめ」の国家にもなりかねません。

また、各国間の技術競争の色彩が強くなればなるほど、国家主導の大規模投資を主張する声が目立つようになります。それ自体は必ずしも否定できませんが、「民間より官が優れている」という思想に直結しやすいのと同時に、「政府は財源として、増税を求めやすいこと」には留意すべきです。

実際に、そうした傾向は出ています。21年の総裁選で経済安全保障政策を唱えた岸田氏は、新自由主義路線を転換し、分配政策を強める構えです。同様に経済安全保障を唱えた高市氏についても、金融所得への課税を強めるだけでなく、企業の現預金への課税を主張しています。こうした発想は、まさしく「“お上”が民間より適切な投資ができる」という思想が背景にあると言えます(*5)。

 

国家主義的な政策によって、社会主義化すれば、守るべき経済的繁栄は消滅する

そうした「規制が多く、税金も重い国家の経済」は、どんどんとしぼんでいきます。それは、米ソ冷戦で既に実証されたことです。社会主義国家の中国においては、経済に資本主義を導入したことが経済成長の要因であり、現在、それに陰りが見えるのは習近平の毛沢東路線への回帰にあります。

つまり、国家の富を守ろうと市場への介入を強め過ぎれば、いつの間に「守るものそのものが消えていた」という事態になりかねないのです。いくら法律で、技術の流出を禁止しようとも、日本市場そのものが魅力的でなければ、技術者の流出を止めることはできません。

つまり、「経済安全保障」においては、海外に対する防衛的な政策と、国内での市場の魅力を高める積極的な政策の2種類が欠かせないのです。そして、その積極策には、自由主義的な政策が必要不可欠であるのです。

 

中国依存の枠組みを修正し、魅力的な市場を整えるのも「経済安全保障」の一環

それは、サプライチェーンの問題においても同様です。多くの日本企業が中国に依存する理由は、「経済合理性」です。中国依存を最終的に止めるには、その枠組みそのものに修正をかけるのと同時に、新しく別の魅力的な市場を整える必要があるのです。法律だけで止めようとしても、「抜け道を探すか、企業そのものが国外脱出をするか」のいずれかの結果を招くこととなるでしょう。

自民党の「経済安全保障」にはそうした「魅力的な経済環境を整える」という視点が欠けていると言わざるを得ません。もちろん、自民党政権でも半導体の企業誘致のために、補助金は支出するかもしれません。しかし、大事なことは“持続可能な”競争環境の創出です。例えば、製造業においては、電気料金は死活問題ですが、脱炭素戦略で、むしろ電気料金を上げる方向へと舵を切っています。いくら補助金を出しても、電気料金が高すぎて儲けられない国には、企業は投資しないのです。

 

自民党版「経済安全保障」で、同一視される「エコノミック・ステイトクラフト」

こうした欠点を抱える自民党版「経済安全保障」の思想的背景として、エコノミック・ステイトクラフト(Economic Statecraft)が挙げられます。自民党の経済安全保障の流れは、2019年のルール形成戦略議員連盟による「国家経済会議(日本版NEC)創設」の提言から端を発すると言えるでしょう。この提言では、経済安全保障の代わりにエコノミック・ステイトクラフトを多用しています(*6)。

そうした流れもあるからか、多くの識者は経済安全保障(Economic Security)とエコノミック・ステイトクラフトを混同しています。双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦氏は、「最近、”Economic Statecraft”の訳語として、経済安全保障の言葉が使われている」という趣旨のことを述べています(*7)。

 

エコノミック・ステイトクラフトでは、国際政治を読み解くのに不十分だ

しかし、2つの概念は明確に異なっています。エコノミック・ステイトクラフトは、「経済外交術」とも訳される通り、基本的に相手国に対する政策を想定します。仮想敵国に対する制裁や、逆に友好国に対する優遇関税などが考慮されます。

一方で、エコノミック・ステイトクラフトは、自国の国力を高める「自助努力」は考慮されていません(*8)。この点が理論上、経済安全保障と最も異なる点となります。もちろん、現実世界では、エコノミック・ステイトクラフトを唱える識者も、自国の国力増強の観点を盛り込んではいます。しかし、総じて見ると、その要素は弱く、経済安全保障を論じる際に、重要な点が見落とされがちです。

 

「トランプ減税」による好況は、米中新冷戦に向けたアメリカの「経済安全保障」となった

その最たる例は、米中対立です。多くの識者は、“エコノミック・ステイトクラフト”の代表例として、トランプ政権による「対中制裁」を挙げますが、2018年に同政権が中国強硬路線に踏み込む直前の17年12月に、「トランプ減税」を成立させたことを言及することはあまりありません。

トランプ大統領は、中国と本格的な経済的な戦争状態に入る前に、そうした状況になっても、耐えられるだけの国内経済をつくり出しました。こうした減税政策も、経済安全保障の「自助努力」の領域に入ります。減税政策は米中新冷戦を開始するにあたって、重要な「経済安全保障」となりました。

 

中国は、経済安全保障として、米国経済の好況を崩壊させ、トランプ落選に導いた

そして、そうした経済安全保障の観点に立ってはじめて、コロナ・パンデミックの意味を読み解けるようになります。まず、トランプ大統領は国内経済の活況を「武器」にすることで、中国を追い込みました。しかし、逆から見れば、経済がトランプ大統領のアキレスとなったわけです。コロナ・パンデミックを分析する際に、この点は外すことはできません。

つまり、中国は、自国の「経済安全保障」として、新型コロナ・ウィルスを拡散させたことで、米国経済の好況を崩壊させたと見ることができます。これによって、19年段階では、再選確実とも言われたトランプ大統領は大統領選に敗れたと分析可能でしょう。こうした相手国に対するネガティブな手段は、自助努力と違い、エコノミック・ステイトクラフトにも見られる概念です。しかし、エコノミック・ステイトクラフトでは、米中対立の起点を「トランプ減税」に見ることができないため、こうした観点は欠けがちと言えます。

 

エコノミック・ステイトクラフトには「自由主義的な発想」が欠けている

もう一つのエコノミック・ステイトクラフトの問題は、その根本思想にあります。そもそもエコノミック・ステイトクラフトは理論上、「自助努力の概念がない」と指摘しましたが、実践の場では、必ずしもそうではありません。しかし、たとえ自助努力型の政策が盛り込まれたとしても、国家主義的な政策につながりやすい傾向が見られます。

これを考えるにあたり、語義を見てみます。ステイトクラフトは、「権謀術数」と訳されます。また、クラフトという言葉は、技術を意味しますが、これが派生して「工芸品」の意味ともなります。

語義からは、エコノミック・ステイトクラフトは、自由主義的な発想と対極の言葉と考えられます。権謀術数には、「理性主義」的なニュアンスが含まれ、クラフトには、人工的なニュアンスが含まれていると言えます。これは、ハイエクが批判した「設計主義的合理主義」と非常に近い思想でしょう。

つまり、経済安全保障としては、自由主義によって、経済的な繁栄を武器とする戦術は非常に重要ですが、エコノミック・ステイトクラフトでは、そうした発想が生まれない可能性があるわけです。

 

自民党政権に足りない“攻め”の「経済安全保障」_03

 

③経済安全保障の前提となる明確な「国家ビジョン」がない

自民党は、経済の上位概念を十分に示せていない

最後の問題点は、自民党が経済安全保障戦略の上で、経済の上位となる価値観を十分に示せていないことです。もちろん、自民党の経済安全保障の提言では「国家の存続と国民生活の維持」を上位概念として掲げていますが、十分な説得力はないでしょう。

国家の存続は、無条件に上位概念になるわけではありません。すなわち、国家は滅亡しても、企業や個人が存続することは可能なのです。少なくとも、自身の安全が保障されれば、そう思わせることはできます。

 

「中国の何が問題なのか」をはっきりと示せていない

また、「大中華帝国の下で、日本が国家としての安全が保障されるのであれば、中国とビジネスをして、経済的に繁栄することの何が問題なのか」という意見はあるわけです。自民党政権では、十分な説得材料を持っていないでしょう。しかし、これでは、中国に対する経済安全保障は「あってなきが如し」です。

 

経済の上位概念を示してこそ、経済安全保障には実効力が伴う

度々、政府が掲げる経済安全保障政策の実効力は疑問視されてきました。例えば、2021年3月には、テンセントの子会社が楽天に出資しました。楽天は第4の携帯会社として、巨大なインフラ網を整備しつつあります。中国系企業の出資は、安全保障上、明らかに問題です。しかし、米中対立を受けて、外為法を改正したにもかかわらず、この問題に対して、当局は十分に対応できませんでした。

これを「法律の不備」と言えばそれまでですが、そもそも実効力が伴わない状況に陥ってしまう思想的背景を見るべきです。すなわち、経済の上位概念が不明瞭なので、経済を優先して中国とビジネスすることの間違いを正せないのです。逆説的ですが、経済安全保障は、経済の上位概念を明らかにしてこそ、はじめて十分に機能すると言えます。

 

日本国の存在意義に答えられなければ、経済安全保障は無力化しかねない

これらのことを総合すれば、結局、「日本国の存在意義」に答えを出すことができるかという問題になります。経済安全保障は、一時的には経済合理性を犠牲にする局面も出てきます。「経済人」に対し、それを許容させる「何か」を示すことができなければ、「全体主義国家」の中国に対抗することはできません。そして、その「何か」とは、中国と対極の価値である必要があります。

 

「自由・民主・信仰」の価値観を打ち立ててこそ、日本国の存在意義は明らかとなる

自民党の掲げる上位概念には、もちろん、そうした中国と対極する価値観を含んでいますが、「空念仏」となっています。具体的には、提言で「自由、民主主義、基本的人権の尊重といった普遍的価値やルールに基づく秩序」を掲げていますが、「なぜ、これらが普遍的なのか」あるいは「なぜこれらが大切なのか」を答えることはできないでしょう。

これらは、神仏への信仰があってはじめて、尊いものとなります。人間は、神によって創られたが故に尊い存在であり、人権の根拠となり得るのです。民主主義大国のアメリカが、聖書を片手に大統領就任演説をすることの意義を忘れてはなりません。

そして、信仰を打ち立ててこそ、日本の「原点」や「はじまり」は明らかになります。聖徳太子は、仏教を国教とし、「和を以て貴しとなす」というわが国の文化の基礎を確立しました。その根源には、西洋の人権思想とも重なるものがありました。すなわち、全ての人間が仏になる可能性がある「仏性」を認めたのです。故に、互いに和することが重要視されたと言えます。

つまり、わが国の文化には、普遍的な価値に通じるものが含まれていますが、これは、「信仰」の価値観を認めてはじめて、明らかになるものです。

 

「大義」を明らかにするところから、安全保障は始まる

一見、このことは、安全保障と関係が無いように見えますが、戦争において、最も大切な要素の一つは、大義名分です。これは孫子も認めることです(*9)。結局、大義なき経済安全保障は成立しないのです。そして、唯物論全体主義国家である中国に対しては、大義の根源的価値は、「自由・民主・信仰」となるのです。

 

明確な国家ビジョンの背景には、強力な哲学が必要である

そして、そうした強力な大義は、「明確な国家ビジョン」につながっていきます。中国は、経済安全保障に連なる国家ビジョンとして「一帯一路」構想を掲げています。これに対抗できるだけの「巨大な国家ビジョン」を示すためには、それだけ強力な哲学が必要です。なぜならば、「長い物には巻かれる」方が簡単なことであり、それに抗うにはそれなりのエネルギーを要します。このエネルギーの源泉の一つが、強力な哲学から来る使命感なのです。

 

自民党政権に足りない“攻め”の「経済安全保障」_04

 

3. 結論 明確な「国家ビジョン」を樹立し、“攻め”の「経済安全保障」を

自民党が掲げる経済安全保障の限界を三点指摘しました。しかし、冒頭の二点は、最後の三点目に集約されていくと言えるでしょう。一点目の「日本経済の中国依存」については、換言すれば、経済安全保障の「本気度」に対する問題提起と言えます。二点目の「経済安全保障が招く日本衰退」については、換言すれば、「何によって繁栄はもたらされるか」という問題提起とも言えます。

すなわち、それらは、「自由・民主・信仰」を価値観の樹立が、中国という全体主義国家へのアンチテーゼや大義となり、やがては「国家ビジョン」となり、安全保障へとつながっていくという第三点に帰結するわけです。

結局、日本が、積極的な“攻め”の経済安全保障を展開していくためには、中国と日本の違いを明らかにして、中国の問題点を強く認識し、日本の美点をより強めなくてはならないのです。

今、必要なことは、中国依存を脱却し、強固な中国包囲網を築き上げること。それこそが、“攻め”の経済安全保障と言えます。そして、それを可能とするには、経済の上位概念となる「自由・民主・信仰」に基づく明確な「国家ビジョン」を描き出し、「世界的正義」を示すことが不可欠なのです。

以上

 

  1. 自由民主党(2020.12.16)「提言「経済安全保障戦略策定」に向けて(政務調査会 新国際秩序創造戦略本部)」https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/201021_1.pdf
  2. もう一つは「戦略的不可欠性」である。これは「国際社会全体の産業構造の中で、わが国の存在が国際社会にとって不可欠であるような分野を戦略的に拡大していくことにより、わが国の長期的・持続的な繁栄及び国家安全保障を確保すること」とある。
  3. 「海外との貿易・投資等に大きな困難が生ずる場合に国民生活と正常な経済運営の維持に支障が生じるような産業」としている。
  4. デレク・ユアン(奥山真司 訳)(2018)「真説 孫子」中央公論新社、p.63
  5. もちろん、両氏が経済安全保障政策のために、増税を掲げているわけではないが、経済安全保障を訴える候補が、同時に増税を訴えている事実は注視すべきである。
  6. 甘利明(2019.3.20)「提言『国家経済会議(日本版 NEC)創設』」https://amari-akira.com/02_activity/2019/03/20190320.pdf
  7. 東洋経済online(2021.6.26)「エコノミック・ステーツクラフトを知ってますか?(吉崎達彦 著)」https://toyokeizai.net/articles/-/436969
  8. 長谷川将規(2013.2.15)「経済安全保障」日本経済評論社、p.34,35,46,47
  9. 冒頭より「孫子曰く、兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。故にこれを経るに五事を以てし、これを校ぶるに計を以てして、その情を索む。一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法なり」とある。道とは、この場合、大義名分と考えて差し支えなかろう。

 

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