“的外れ”な経済対策は実施すべきではない

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.29(2022.10.28)

幸福実現党政務調査会
2022年10月28日
No.29

 

“的外れ”な経済対策は実施すべきではない

 

政府は28日、物価高などに対応するため、29.1兆円規模の補正予算案を裏付けとする新たな総合経済対策を閣議決定しました。電気・ガス代の抑制策のほか、子育て支援の拡充などが盛り込まれています。以下、今回の経済対策の問題点を指摘します。

 

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1.「量」のみを追求し「質」をなおざりにした経済対策となっている

現在、日本は、世界的な資源高や円安を背景とする物価高に直面し、国民生活を圧迫しています。

政府は今回、物価高を是正するとして、一般会計歳出で29.1兆円、事業規模71.6兆円とする総合経済対策を実施することを閣議決定しました。

昨今のコロナ対策や物価対策をはじめとする経済対策は「規模感ありき」の様相を呈しています。この背景には、日本経済には今、潜在GDPと実際のGDPの差である「需給ギャップ」が存在していることが指摘されています。需給ギャップがマイナスとなる時、つまり「デフレギャップ」が存在する時というのは、国内経済は全体として需要不足に陥り、これが賃金の上昇を阻むとされます。賃金アップを伴わない「悪いインフレ」から脱却するためとして、巨額の政府支出が進められているのです。

しかし、需給ギャップというのは、推計する主体によって値がまちまちです。実際に、2022年4-6月期の需給ギャップについて、内閣府は-14.8兆円と推計している一方、日本銀行による推計はわずか-3.8兆円に過ぎません。対策に使われるべき金額の根拠というのは、実に乏しいというのが実情です。

政権与党の代表も、今回の経済対策の予算規模について、「デフレギャップを埋めるのにかなり効果がある」としていますが、財政が最悪の状況にある中、「定かではない値」に基づいて経済対策の規模を求めるのは、問題があるのではないでしょうか。(*1)

そもそも、デフレギャップを埋めるとして、巨額の歳出を行うことが合理化されうるのでしょうか。日本で需要全体が伸びないのは、バラマキが増税を呼び込み、それが経済のブレーキとなっているからであり、さらに、無用なバラマキでサプライサイドが脆弱となり、国際競争にさらされた民間企業の「稼ぐ力」が、次第に弱まっていったからです。

政府によるバラマキ・増税のマッチポンプを繰り返したところで、政府が強調する「稼ぐ力」の高まりは見込めないでしょう。さらに、バラマキは円安・物価高を招くことになり、状況を一層悪化させることにつながります。

米国や英国などは、日本以上の高インフレに直面していますが、その背景には、日本とは違って、資源高などとともに「需要」の拡大も一定程度寄与しています。日本ではこれまで、“黒田バズーカ”として、異次元金融緩和を実施してきたことでお金が大量に滞留している状況です。日本が一層のバラマキを行えば、米国や英国以上の高インフレに直面し、生活を行うこともままならない状況にも直面しかねません。

(*1)木内登英「需給ギャップを根拠に経済対策の規模を議論するのは誤り」(NRI「木内登英のGlobal Economy & Policy Insight」, 2022年10月7日)(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/fis/kiuchi/1007_2, 2022年10月28日参照)。

 

“的外れ”な経済対策は実施すべきではない_02

 

2.物価高対策には、「根本治療」を

物価高対策はとしては本来、「量」よりも「質」を求める「根本治療」を行うべきではないでしょうか。以下、各論点に対する考え方を整理します。

(1) 光熱費対策には補助金より原発再稼働

電力料金の高騰が家計を圧迫していることから、政府は今回の総合経済対策の一環として、電力の価格高騰に対する負担軽減措置を実施することを表明しています。この措置により、来年年初から9月までの9ヶ月間で、標準的な家庭の負担を2割減らすとしています。

今回の措置の仕組みは、実施の延長が決まったガソリン価格抑制のための補助金制度と同様、電力小売会社に対して補助金を給付し、価格抑制を図ろうとするものです。

ただ、電力料金が高騰しているのは、世界的なエネルギー資源高に円安が拍車をかけているという構造があるからです。したがって、光熱費対策として、エネルギー政策を抜本的に転換するなど、「根本治療」を行なわなければ、資源高が続く限り、補助金を撒き続けることにつながります。

電気代の軽減に向けては、全国にある原発の再稼働・新増設を早急に進めるほか、光熱費高騰の一要因となっている脱炭素政策を見直す必要があります。そもそも、物価高はあらゆる産業の経済活動を圧迫しているにもかかわらず、電力小売など一部の産業にのみ補助金を付与することは公平ではありません。

政府は今回、電力料金の負担軽減策の一環として、政府が再エネ賦課金の肩代わりを行うとしていますが、電気料金が税金に置き換わるだけであり、国民に負担がかかることに変わりはありません。また、これは時限的な措置に過ぎず、脱炭素政策の推進が家計や企業を圧迫させる構図に変わりはありません。政府は脱炭素政策の方針を抜本的に見直すとともに、固定価格買い取り制度(FIT)の廃止方針を打ち出すべきです。

 

(2) 円安対策に必要なのは、補助金ではなく政府の“減量”

今回の物価高の背景としてもう一つ挙げられるのは、円安による輸入価格の高騰です。

今、円安・ドル高が進行しているのは、日本と米国との間に金利差が生じているからであり、その背景には、高インフレに直面する米国・FRBが政策金利を引き上げる中、日銀は「異次元の金融緩和」路線を継続させていることがあります。

かといって、日銀が金融引き締めに舵を切れば、国債金利の上昇(国債価格の下落)に直面することになります。政府債務が1,200兆円超に膨らむ今、国債金利の引き上げで利払費が拡大し政府財政は大きく圧迫されることになるほか、“黒田バズーカ”以降、大量の国債を保有してきた日銀や市中銀行は、国債価格の下落で破綻しかねず、日本経済は大きな揺らぎに直面することも否定できません。

日本はこれまでの異次元の金融緩和、大胆な政府歳出などの経済政策のツケとして、金融政策は自由性を失っているわけです。政府は今回、一連の補助金政策を提示していますが、さらなる財政赤字につながり、自らの首を絞めるという面で逆効果と言えます。

健全な財政へと戻すためにも、政府は歳出の大幅な見直し、つまり「減量」を推し進めていかなければなりません。

また、政府・日銀は円安の是正策として、為替介入を行っていますが、為替介入として使われる外貨準備高は本来、通貨危機などにも備えて、一定量は確保すべきものです。こうした対外資産を“焼け石に水”にしかならない円安是正策に使い、雲散霧消させるべきではないでしょう。

 

(3) 子育て支援には、給付より新産業の創出

政府は子育て世代への支援の拡充策として、育児用品の購入負担の軽減策として計10万円相当のクーポンを支給することを決めています。

しかし、今回のような単発の政策を打ち出したところで、子育て支援や少子化対策にはつながらないというのが実情です。むしろ、戦略性のないバラマキが今後のさらなる増税を想起させてこれが「将来不安」の要素となり、結果として少子化が一層深刻なものとなりかねません。

将来に対する経済不安が「産み控え」の一因となっているため、政府は本来、小手先の対策ではなく、雇用創出や給料アップを実現すべく、減税・規制緩和を実施すべきです。

岸田政権は、「構造的な賃上げ」の実現を主張していますが、バラマキを続ける限り、日本は低成長から抜け出すことはできず、少子化の根底にある「稼ぐ力」も一層低下することにつながります。政府は本来、社会保障の抜本的な改革を行うなど、歳出構造を見直すと同時に、将来的なフラットタックスの導入を見据え、所得減税や累進課税の是正、労働法制における解雇規制の見直しなど、確かな減税・規制緩和路線を推し進めることで「稼ぐ力」を後押しするための環境整備をこそ行うべきです。

 

(4) インバウンド消費依存ではなくメイド・イン・ジャパンの復活へ

政府は円安を生かして、訪日外国人によるインバウンド消費を拡大するべく、日本の観光地を海外でPRする事業などを実施するとしています。

日本は円安とこれまでの長年のデフレにより、物価が諸外国に比べて大幅に低下し、「安い国」と化している状況にあります。政府がコロナ対策などで経済活動の制約などを課さない限り、何もせずともインバウンド消費は進むものでしょう。今月すでに開始となっている旅行需要喚起策の「全国旅行支援」と併せて、見直しを図るべきです。

雇用を創出したり、本質的な意味で「稼ぐ力」を高めるためには、政府は、安易なバラマキ・補助金政策ではなく、海外に移転した工場を日本に呼び戻すために、生産拠点を国内に戻した企業に大幅な減税策を実行するなど、強力な施策を提示すべきではないでしょうか。

 

“的外れ”な経済対策は実施すべきではない_03

 

3.巨額の政府歳出は今後、財政破綻を招きかねない

日本の政府財政は、今回の経済対策によって、破綻の危険度を一層増したというのが実際のところでしょう。

英国では、リズ・トラス前首相が歳出カットなど財政への配慮を十分に行わないまま所得減税など大減税策を実施しようとしたところ、財政状況への懸念からポンドの大幅安、英国債金利の急騰に直面する事態となりました。

英国の今回の事態は、年金基金の巨額の損失や恒常的な経常赤字などが背景にあると言われていますが、GDPに占める政府債務残高の値で見て英国以上に深刻な状況にある日本も、英国と同様に財政への「信頼」が揺らいで、さらなる円売りや国債価格の暴落が進み、日本経済の崩壊、政府財政の破綻も現実のものとなりかねないでしょう。

財政破綻のリスクを顧みず、巨額の財政支出が実施しても問題ないとする考え方として、MMT理論や政府・日銀の統合政府論が挙げられますが、MMT理論は特にインフレ下では成り立つ議論ではなく(*2)、統合政府論も、国債価格の暴落とそれに伴って日銀や市中銀行が破綻に追い込まれかねないといったリスクを過小評価しているようにも見えます。

政府支出というのは、租税による国民負担を必ず伴うものであって、国債発行を歳出の原資にするとしても、それは、負担を将来世代に先送りにしているに過ぎません。

本来、政府が果たすべき役割というのは、物価高に対して適切な「治療」を行いつつも、やはり個人や民間企業の自由な経済活動を行うための環境整備を行うことに他なりません。際限のない政府歳出はむしろ、民間を圧迫するばかりです。今やるべきは、バラマキ・増税の負の循環を断ち切り、政府の無駄な仕事を「減量」することに他なりません。

(*2)MMTの問題点については、幸福実現党「参院選2022特設サイト」内「政策 Q&A(番外編:MMT)」(https://hr-party.jp/policy/class/2022/qa/)参照。

以上

 

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