「103万円の壁」について考える

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.37(2024.11.27)

 

2024年11月27日
幸福実現党政務調査会
No.37

 

「103万円の壁」について考える

 

(ポイント)

  • 「103万円の壁」 引き上げは、アルバイトやパート労働者の働き控えを一定程度抑制できるほか、一般の労働者に対する幅広い減税措置となり、こうした点を踏まえると、良い方向の施策と言える。
  • 一方で、実質減税となる「壁の引き上げ」の際に歳出カットを伴わなければ、物価高や将来的な増税など、実質的な意味で国民負担が上昇する懸念もある。壁の引き上げと同時に「政府の仕事の減量」を併せて行う必要がある。
  • 「103万円の壁」を含めた年収の壁の根本解決に向けては、本来、所得税のフラット税制の導入や、社会保障の抜本改革に向けた議論を行うべき。

 

「103万円の壁」問題とは

2024年10月27日投開票の第50回衆院選で、自民・公明合わせた与党が過半数を割りこむ結果となり、第2次石破茂内閣は、野党との政策ごとの交渉を余儀なくされています。そこで焦点となっているのが、「103万円の壁」問題です。

「103万円の壁」とは、アルバイトやパートで働く労働者が、年収103万円を超えると所得税の納税が発生するため働き控えを行うようになるという問題です(注1)。この壁が「103万円」であるのは、基礎控除額(48万円)と給与所得控除額(最低額55万円)の合計が103万円であることによります。

与党と政策協議を行っている国民民主党は、基礎控除額を引き上げることで、所得税の納税が発生するのを「103万円」から「178万円」にすべきだと提言しています。

20日、自民・公明両党と国民民主党は、103万円の壁を「引き上げる」との内容を盛り込んだ新たな経済対策について合意し、22日には、政府はこの経済対策を閣議決定しました。今後は、控除額をどう設定するかなど具体策が議論されることになります。

 

「103万円の壁」問題をどう考えるべきか

「103万円の壁」の引き上げは、パート・アルバイトの働き控えを抑え、労働力不足を抑制する効果を期待することができます。同時に、基礎控除が拡大するため、家族などの扶養者をはじめ、一般の労働者に対して幅広く減税措置が取られることになります。減税で国民負担が軽減される点は評価すべきでしょう。

一方で、政府は、壁を「103万円」から「178万円」に引き上げた場合、国と地方自治体の税収は併せて7兆円〜8兆円程度減収すると試算しています。壁の引き上げと同時に歳出カットを行わなければ、赤字国債の発行額増など財政悪化やさらなる物価高につながることが懸念されます。物価高や将来的な増税など、実質的な意味で国民負担を軽減するためには、壁の引き上げと同時に「政府の仕事の減量」を併せて行うべきです。

 

「年収の壁」問題の根本解決に向けて

国民民主党は、壁を「178万円」に引き上げるべきとする根拠として、「103万円の壁」の水準が定められた1995年から現在までの最低賃金額の伸び率を挙げています。一方、壁の引き上げ額は、1995年を基準にした物価上昇分を考慮した「120万円程度」で良いのではないか、とする意見もあります。

英国の基礎控除額(約239万円)や、ドイツの基礎控除額と給与所得者に対する控除とを併せた額(約169万円)などといった例を見ても、178万円まで引き上げることは諸外国と比べても遜色ないと考えられます。

しかし、178万円分よりももっと働きたい人や、物価高の影響による名目上の収入増の傾向を考えると、本来、「壁」自体を解消すべきではないでしょうか。

そこで、所得税制においてフラット税制を導入すれば、労働量や収入に関わりなく税率が一定であることから、「年収の壁」は根本的に解消されることになります。労働供給を増やすインセンティブが高まって労働力不足が解消されるとともに、労働者の手取りが増える方向となります。将来構想として、段階的にフラットタックスを導入することを検討すべきです。尚、その場合は、低所得者への増税につながらないよう、社会保険料負担の見直し、逆進性が指摘される消費税廃止と同時に進めるなどといった配慮を行う必要があります。

フラットタックスを導入する前段階としては、できるだけシンプルな税制を敷いて広く浅く税をとる仕組みを目指すべきです。所得税率の低下と累進性の緩和を行いながら、税を複雑にしている様々な控除はできるだけ無くしていくべきです(注2)。

 

問題は「103万円の壁」だけではない

「年収の壁」は「103万円の壁」だけではありません。たとえば、パートで働く妻のケースを考えると、住民税が発生する100万円、一定の条件(従業員51人以上の企業で働くなど)で社会保険料が発生する106万円、基本的に無条件で社会保険料が発生する130万円、夫の配偶者特別控除が減り始める150万円、夫が配偶者特別控除を受けられなくなる201万円に、それぞれ壁が存在しています。

所得税に関する103万円の壁については、非課税(税率0%)から税率5%が課せられるに過ぎないので、それほど大きく手取りが減るというわけではありません。

より大きな問題は、社会保険料(厚生年金保険と健康保険)が発生する106万円の壁や、130万円の壁であり、社会保険料の加入義務が発生することで、手取りは大きく減ることになります。

厚生労働省は社会保険料の壁について、年収条件や企業規模の条件を撤廃し、週20時間以上働けば、社会保険料の負担が発生する仕組みとする方針を示しています。しかし、これは社会保険料負担の対象を拡大させる措置であり、企業と労働者にとっては事実上の増税となります。

また、厚労省は、企業と労働者で保険料を折半する今のルールを見直し、労使間で合意が取れていれば、労働者の負担割合を減らせる案も示しています。しかし、労働者の社会保険料負担を軽減したところで、企業にその分の負担が上乗せされることになれば、企業は賃上げをためらうか、労働者を雇うことに消極的になって、失業者が増えることが懸念されます。

そのほか、高齢者が「働き損」となる「50万円の壁」も存在しています。これは、「在職老齢年金」制度によるもので、65歳以上の働く高齢者の収入が、賃金と厚生年金を合わせて月額50万を超える場合、50万円を上回った年金部分の半分が減額されるという仕組みです。厚生労働省は現在の制度を見直し、基準を引き上げるほか、将来的に廃止する案を提示しています。

現行制度は高齢者の労働意欲を削ぎ、生涯現役社会の実現に逆行するものと言えます。将来、年金を多くもらうことを希望する人に限って負担を増やしたり、在職老齢年金の廃止を含め、制度の見直しを早期に進めるべきです。

総じて、事実上の税金といえる社会保険料の壁を根本的に解決するには、公的年金をはじめとする社会保障の根本的な見直しが必要ですが、これは今からでも議論をはじめなければ、国民の負担は重くなる一方です。

(注1)アルバイトやパートが家族の扶養に入っている場合、給与収入が103万円を超えると、税制上の扶養から外れるため、扶養者の所得税、住民税が増えることにもつながります。

(注2)所得税について、現在、様々な控除が存在することにより、収入約270兆円のうち課税対象となる所得は約120兆円に過ぎません。見直すべき控除の一例として、年金に関する控除があります。社会保険料を納める際の「社会保険料控除」がある一方、年金による収入が入った際の「公的年金控除」も存在しており、こうした二重控除の仕組みは見直しを図るべきとの声も挙がっています。

 

以上

 

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