2024年12月27日
幸福実現党政務調査会
No.38
新しい温室効果ガス削減目標を直ちに撤回し、現実的な「エネルギー基本計画」に見直しを
(ポイント)
- 政府は日本の温室効果ガスを2035年度に2013年度比60%減、2040年度に同73%減とする「地球温暖化対策計画(案)」を公表(※1)。パブリックコメントを経て閣議決定され、2月までにパリ協定における日本の削減目標(NDC)として国連に提出(※2)。
- また、政府は「第7次エネルギー基本計画(案)」を公表(※3)。パブリックコメントを経て閣議決定され、2月までに閣議決定。計画はNDCに合わせたCO2排出量となるよう、2040年度の電源構成のうち再生可能エネルギーを4~5割程度、原子力を2割程度としている。再エネを大量に増やす内容だが、再エネは電力系統に統合する費用を考慮した発電コストが高く(※4)、莫大な国民負担を強いることになる。
- 政府が原子力を現行計画の「可能な限り依存度を低減」から「最大限活用」との方針に転換している点は評価できるが、電力自由化・発送電分離の中で事業環境の不確実性が高いことや、過剰な原子力規制の現状を踏まえると、原子力の新増設はこのままでは進まない。
- 2050年カーボンニュートラルの実現は絶対に不可能であることを認め、次期トランプ政権発足とともにパリ協定から離脱する米国と歩調を合わせて日本も脱炭素政策を撤廃し、「安いエネルギー」を目指すべきだ。
※1 中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会イノベーション・環境分科会地球環境小委員会中長期地球温暖化対策検討WG 合同会合(第9回)
資料3-1 (2024年12月24日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_2050/009.html
※2 パリ協定に従い、2025年11月にブラジルで開催されるCOP30の遅くとも9か月前までに提出しなければならない。
※3 経済産業省 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第68回会合)
資料1、2(2024年12月25日)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/068/
※4 経済産業省 総合資源エネルギー調査会 発電コスト検証ワーキンググループ
資料1、2 (2024年12月16日)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/2024/05.html
政府が新しい地球温暖化対策計画の案を公表
政府は24日、日本の温室効果ガスを2035年度に2013年度比60%減、2040年度に同73%減とする「地球温暖化対策計画(案)」を公表しました。パブリックコメントを経て閣議決定され、2月までにパリ協定における日本のNDCとして国連に提出することになっています。
日本の温室効果ガスは、2013年度の約14.1億t-CO2から2050年度のネットゼロ(カーボンニュートラル)に向けて減らすことになっており、現行のNDCは「2030年度に2013年度比46%減」です。今回のNDCは、2050年カーボンニュートラルを実現するという国の方針を踏まえ、現在のCO2排出量が2050年にネットゼロになる直線を引いて途中の排出量を求めたもので、細かな計算をして積み上げたものではありません。
2022年度の削減実績は2013年度比約22%減であり、2030年度のNDC達成さえ非常に厳しい状況です。このことからも、2035年度に同60%減、2040年度に同73%減というNDCがいかに厳しく、経済活動や国民生活に重大な影響・損失を与えかねないものであることがわかります。
政府が第7次エネルギー基本計画の案を公表
また政府は25日、エネルギー政策の基本的な方向性を示す第7次「エネルギー基本計画(案)」を公表しました。同案では2040年の電源構成について、「再生可能エネルギー4~5割程度」「原子力2割程度」「火力3~4割程度」としています。「地球温暖化対策計画」と同様にパブリックコメントを経て2月までに閣議決定される予定です。
2021年に決定された現行のエネルギー基本計画では、2030年度の電源構成のうち再エネを36~38%、原子力を20~22%としており、現行のNDC「2030年度に2013年度比で46%減」と整合性があるとされています。
今回示された2040年度の電源構成は、2030年度時点から2050年カーボンニュートラル実現に向けての中間地点と位置づけられ、新しい削減目標の「2040年度に2013年度比73%減」に対応しています。
ようやく原子力の位置づけは改善したが、新増設は進まない
日本は2011年の福島第一原子力発電所事故から事実上の「脱原発」政策を進め、2014年(第4次)以降の「エネルギー基本計画」では原子力を「可能な限り依存度を低減」とし、新増設も認めませんでした。今回の案では原子力の「最大限活用」に方針を転換し、発電所の建て替えを認めたことから、エネルギー政策における原子力の位置付けはやや改善します。
AI、データセンター、半導体工場等の増加やリニア新幹線の開業等による今後の電力需要の増大、エネルギーの安定供給と経済性を考えるうえで、原子力の再稼働・新増設を進めるべきというのが幸福実現党の一貫した考えです。この点で政府の方針転換はある程度評価できます。
しかし、2016年度以降の電力システム改革(小売全面自由化・発送電分離)政策のもとでは、巨額・長期の投資回収を必要とする原子力の新増設は事業の不確実性が高く、現行制度のままでは電力会社は新増設に踏み切れません。政府による事業環境整備の必要性も議論されていますが、幸福実現党はむしろ電力システム改革の「巻き戻し」を行い、民間主導による強力な電気事業体制を再構築すべきであると考えています。
また、原子力事業の不確実性を増す原因として、原子力規制委員会による不合理で独善的な規制があり、これを速やかに改める必要があることを本年8月の政務調査会ニューズレター(※5)で述べました。
※5 幸福実現党 政務調査会ニューズレター No. 36 「日本の経済と安全保障を破壊する原子力規制委員会を今すぐ解体せよ」 (2024年8月14日)
https://info.hr-party.jp/2024/14339/
実現不可能な「脱炭素」を目指すことで、再エネ急増の「嘘」が生まれる
さて、前述のように政府は今回の「エネルギー基本計画」の案でも、2050年カーボンニュートラル実現の方針を堅持しています。
原子力の新増設は2040年度までにせいぜい1、2基しか進まず、全電源の最大2割程度にとどまることから、CO2排出量の帳尻を合わせるため再エネ比率は4~5割へと引き上げざるを得ず、再エネ偏重の電源構成となっています。再エネの内訳をみると太陽光が最も多く23~29%程度とあり、2040年までに設備容量を現在の約3倍に増やす必要がある計算です。
しかし、現実には再エネをここまで増やすことは非常に難しく、莫大な国民負担が発生します。現在の再エネのほとんどが太陽光であり、目を覆わんばかりの自然破壊や中国製パネルへの過度の依存が進み、メガソーラーには各地で反対運動が起きています。変動性の再エネである太陽光や風力は、発電コストは安くても統合コスト(電力系統に統合する費用を考慮した発電コスト)が原子力や火力と比べて大幅に高く、増やすほど電力システム全体のコストが上昇します。再エネを安定化するには火力のバックアップが必要であり、一方で火力のほうもフル稼働できないためコストが高くなるという悪循環が生じます。再エネを増やしたところで電力の安定供給も経済性も得られず、無理に大量導入すれば国民負担だけが増加します。
政府も楽観的に再エネが増えるとは考えていないようで、再エネ導入が期待ほどには進まない場合のリスクシナリオ(技術進展シナリオ)を作成しています。その場合には2030年度のNDCさえ達成できず、2050年カーボンニュートラル実現は不可能となりますが、こちらの方がずっと現実に近いシナリオといえます。
そもそも2050年カーボンニュートラルを前提としたNDCに合わせて電源構成を考えるから、非現実的で高価な再エネの高い比率を無理に描き、政策で「嘘をつく」ことになるのです。もしエネルギー政策をNDCと切り離せば、安全保障と経済性を考慮した現実的なエネルギー政策を策定することができます。
政府は日本のCO2排出削減が「オントラックで」(=順調に)進んでいると説明していますが、これは経済の低迷が主因であり、他のG7諸国では削減が予定通りに進んでいません。米国の次期トランプ政権は気候変動政策を完全に撤回し、パリ協定から離脱します。中国・インドをはじめとするクローバルサウスの国々は今後も大量の排出が続き、地球の温室効果ガス排出量が2050年にネットゼロになる見込みは全くありません。
こんな現実離れした国際約束に縛られず、絶対に実現不可能な「脱炭素」に見切りをつけて、日本の国益を最優先したエネルギー政策を作るべきです。
政策提言
エネルギーは経済と安全保障の基盤であり、エネルギー政策は、日本の国力を高め、国民負担を減らすことを第一の目的として策定すべきです。
幸福実現党は第7次「エネルギー基本計画」の策定にあたり、以下を政府に求めます。
1.新しい温室効果ガス削減目標(NDC)を白紙に戻し、国連へのNDC提出を見送ること。
米国の次期トランプ政権はパリ協定からの再脱退を公約しており、政権交代後は気候変動に関する国際交渉は空転する。このタイミングで日本の行動を縛ることは非常に愚かであり、米国の動向を見極めて戦略的な立ち回りを。
2.エネルギー政策を温室効果ガス削減目標と完全に切り離し、エネルギーの安定供給とコストの引き下げを政策目標とすること。
再エネを政策支援によって無理に大量導入せず、民間の経済合理性の範囲内で秩序ある拡大を目指すべき。メガソーラーや陸上風力による自然破壊を防止し、中国製設備には米国と同等の関税を。新エネルギーの技術開発は電気料金とは別の財源で効率的に支援すべき。
電力システム改革を巻き戻し、改革しつつ新しい電気事業体制の整備を。これにより、火力発電による予備力を高めて安定供給を回復するとともに、原子力事業の不確実性を減らすべき。
原子力規制委員会を解体し、合理的で効率的な原子力規制の再構築を。
以上