2026年1月6日
幸福実現党政務調査会
No.41
政府が進めるGX戦略とは
・ 政府が進めるGX(Green Transformation)戦略とは、化石燃料中心の社会経済システムを、太陽光発電など再生可能エネルギー、CO2回収貯留(CCS)、水素、アンモニアといったクリーンエネルギー中心のものへと変革するための投資を通じ、脱炭素と経済成長の両立を目指すというものです。
・ 政府は、今後10年間、官民協調で150兆円を超えるGX投資の実現に向けて、2024年2月に発行を開始したGX経済移行債を活用し、国として20兆円規模の先行投資を実施するとしています。
・ 高市早苗首相は、先般の自民党総裁選の中で、「だいたいおかしいと思いませんか。釧路湿原に太陽光パネルを敷き詰めるようなやり方は」「(太陽光などの)補助金制度の大掃除をして、本当に役に立つものに絞り込む」などとして、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の推進に対しては否定的な考えを示してきました。昨年12月23日には、政府は2027年以降のメガソーラーの新規事業に対する補助を廃止することを明記した、メガソーラー規制強化策を決定しています。
・ 一方で、政府は11月に閣議決定した総合経済対策において、「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」に向けた投資先の一つとしてGX投資を挙げることをはじめ、GX投資を推し進める従来の政府方針を維持しています。
・ 年間で概ねGDP3%分にもあたる多額の投資資金を投入したとしても、技術革新が起きて、既存の低コストのエネルギー以下にコストが低下することは保証の限りではありません。また、企業にとっても、設備投資コストに見合った収益が得られるかの保証はありません。
・ むしろ、下記に述べる通り、高コスト体質の脱炭素電源に対して無理に投資を推し進めることは、日本の経済力、国益を損ねることにつながります。高市首相が昨年10月24日の施政方針演説で言及した「安価で安定的な」電力供給体制の実現に向けては、GX戦略の見直し、および脱炭素政策そのものを撤回する必要があると考えます。
GX投資を推し進めれば、経済成長にはむしろマイナス要因に
・ 政府がGX戦略を推し進めるのは、「GX投資がイノベーションを喚起し、経済成長と脱炭素社会の実現を両立する」との考えが背景にあります。
・ しかし、GXの投資先として、太陽光発電、風力、水素、CO2回収貯留(CCS)などは高コストなものばかりです。高コストなものに対して資源を投入しても、エネルギーコストを劇的に下げるような技術革新が進む保証もなく、むしろ、脱炭素社会への移行を無理に推し進めることで、全体的にエネルギーコストが上昇することが懸念されます。20兆円分の国債と民間投資を誘発するための各種補助金に加えて、クリーンエネルギーによって生み出される高い電力料金は、全て国民が負担することになります。
・ 政府がGXを推し進めるためのGX移行債の原資として、排出量取引制度や実質上の炭素税とも言える化石燃料賦課金(*1)など、CO2の排出に金銭的なコストを課すカーボンプライシングで調達することが念頭に置かれています。
・ 企業がCO2の排出枠を購入したり、賦課金を納めて排出コストを負担するだけではなく、コストが電気代や製品の価格に上乗せされれば、結局は一般の消費者の負担が増大することになります。
・ こうした制度はやはり、国民の負担を高めて経済成長の足枷にしかならないのです。経済的に全く割に合わない非効率な投資を「グリーン投資」として政府が主導することは、まさに「政府の失敗」に他なりません。
・ また、補助金は本来であれば市場から淘汰されるべき非効率な技術を存続させるどころか、民間資本をこうしたものに向かわせてしまうことで、他の有望な技術に対する資源の投入がおろそかにもなってしまいます。エネルギー分野を含め、技術進歩は原則、市場原理に委ねるべきです。
脱炭素政策は、日本の産業を壊滅に追い込む
・ 日本政府は2050年にカーボンニュートラルを達成する目標を掲げており、2030年には2013年比でのCO2排出量を46%削減するなどとしています。しかし、これにより、エネルギー価格が上昇することで産業の競争条件が悪化して輸出が低下するほか、財・サービス価格の高騰により消費が低迷し、年間およそ30兆円ものGDP損失が生じるとの試算もあります(*2)。
・ エネルギー価格を生産価格で調整した指標で見ると、これまで脱炭素政策を強力に押し進めてきた日本と欧州のエネルギー価格は、米国と比べると2.3倍から2.6倍に開いており、政府が人為的に電力価格を抑制している中国との電力価格差も拡大し続けているとの分析があります(*3)(*4)。
・ 下記に見るように、米国はもとより、欧州も脱・脱炭素に少しずつ舵を切ろうとする中、日本が脱炭素政策を深掘りしてエネルギーコストをさらに高めることになれば、製造業の国外への流出、産業空洞化を加速させ、雇用のほか、競争力の源泉となる技術を失うことにもつながります。
・ 日本経済の屋台骨を支えてきた自動車産業においては、ここ十数年の為替状況や高い法人税などに加え、高すぎるエネルギーコストにより海外生産へのシフトが進んできました。現在、同産業の海外生産は全体の約7割にものぼる状況です。
・ また、化学、鉄・非鉄、窯業土石、紙パルプといったエネルギー多消費産業は、最終財に含まれる中間財を含めると、輸出全体の約4割を支えており、日本経済において重要な位置を占めています(*5)。エネルギーコストの上昇は、こうした産業の競争力を蝕み、海外への流出を後押しすることにつながります。こうした産業は自動車産業をはじめとする基幹産業において素材を供給してサプライチェーンの基盤となっていることから、海外流出の加速を許せば、経済安全保障が脆弱化することにもなります。今、日本やドイツのエネルギー多消費型産業の生産水準は中国に遅れを取り、停滞を続けていますが(*6)、こうした状況をさらに悪化させるわけにはいきません。
・ また、脱炭素社会への移行に伴うエネルギーコストの上昇は、地域社会にも大きなダメージを与えます。電気代の高騰によって、特に冬場、北海道、東北、北陸といった寒冷地の家計を直撃するほか、産業においても、大分県、岡山県、山口県など、エネルギー多消費産業(鉄鋼、石油化学、セメント等)を抱える地域の経済を疲弊させることにもつながります(*7)。
・ このように、脱炭素投資を闇雲に進めてエネルギーコスト、電気代を押し上げれば、物価高を一層悪化させて家計をさらに苦しめるほか、日本の製造業の空洞化を推し進め、経済安全保障を大きく損なうものとなります。
・ 国内の電力供給体制を信頼して国内投資が押し進められる構造は「電力与信」と呼ばれます。今後の日本経済において、生成AIの普及、データセンターの建設・稼働のほか、リニア新幹線の実用化などを見据えれば、一層の電力需要が見込まれることが想定されます。こうしたことを踏まえても、日本経済を成長軌道に乗せるには、安くて安定的な電力供給体制を構築することが必要です。
GX戦略は日本経済を貧しくさせ、中国に富を還元させる
・ 日本では、2026年度よりGX-ETS(排出量取引制度)が本格化することになっていますが、その導入の背景にあるのが、EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)です。
・ EUで欧州排出量取引制度(EU-ETS)にもとづき厳しいCO2排出規制が課されていることを念頭に、CBAMは、EU域外からの輸入品に炭素価格を課すことで、競争条件を合わせようとするものです(*8)。しかし、これは「関税」を課すことにほかならず、EU産の財やサービスが有利となる「炭素ダンピング(*9)」に他なりません。自由で公正な貿易の障壁となっていることから、CBAMの存在根拠そのものを疑問視すべきです。そして、日本国内において、EUと取引し、CBAMの対象となる企業がごくわずかに限られるにも関わらず、EUと取引を行う国内企業とCBAMの対象とならない国内企業との競争条件を合わせるとして、日本において排出量取引を導入するのはナンセンスです。
・ また、現在、太陽光パネル、蓄電池、電気自動車(EV)の生産に欠かせないレアアースや基幹部品の多くを中国が保有している状況です。例えば、中国の太陽光パネル(モジュール)の生産能力は全体の8割を超えるほか、洋上風力発電の主要設備の世界シェアも6割〜8割に達し、EVも世界シェアを圧倒している状況です。GX投資を推し進めることは、日本国内の生産設備や雇用を失わせ、富を日本から中国および関連企業に垂れ流す行為にほかならないのです(*10)。
・ 脱炭素は、西側先進国の国力を弱らせ、共産主義・全体主義国家の覇権拡大を推し進める“罠”と言えるでしょう。こうした構造を見破り、日本政府は脱炭素政策を撤回しなければなりません。
日本は強靭なエネルギー供給体制を作り、米国とともに「エネルギードミナンス協定」締結を
・ そもそも、脱炭素政策の背景にある「CO2温暖化犯人説」は理論的に証明されている訳ではなく、コンピューターシミュレーション上の「物語」であるという域にとどまるものであり、「フェイク」と言って過言ではないでしょう。トランプ大統領も、CO2温暖化犯人説に基づく気候変動、温暖化対策に対しては否定するスタンスをとっており、これらは「史上最大の詐欺だ(2025年9月23日の国連総会)」としています。
・ 米国は第2次トランプ政権発足以降、パリ協定から離脱するとともに、バイデン前政権下の「インフレ抑制法(IRA)」を実質的に撤廃させて、再エネ、電気自動車への補助金の根拠が失わせるなどCO2に関する規制を撤廃して、「1兆ドルの規制緩和」を進めています。
・ 一方、例えばドイツでは、エネルギーコストが上昇する中で、2023年までの5年間で、生産活動は約10%減、特に、粗鋼生産などエネルギー多消費産業の生産活動が約20%落ち込んでいます。こうした経済的な負担に耐えかねて、欧州でも脱炭素政策の見直しが進められつつあります(*11)。
・ イタリアのメローニ政権が、EUがこれまで行ってきた規制強化の動きに対して反対の姿勢を示し続けているほか、英国で野党保守党や改革UKがCO2ネットゼロを撤廃する姿勢を示して支持を伸ばしているほか、ドイツのAFDや、フランスの国民連合など、脱炭素に反対する勢力が支持を広げている状況にあります。また、EUは2035年にガソリン車の販売を原則禁止するとの方針を示してきましたが、自動車産業を抱えるドイツからの要望もあって、先般、これが撤回されました。
・ このように、米欧が脱・脱炭素に舵を切る中、日本だけが唯一、脱炭素に突き進んでいる状態にあると言えます。しかし、その日本でも、雲行きが怪しくなりつつあります。昨年8月には、原材料の高騰もあって三菱商事グループが洋上風力発電事業から撤退しています。カーボンニュートラル実現に向けて、洋上風力は重要な位置を占めていたはずです。2050年カーボンニュートラルとその実現に向けた政府のエネルギー基本計画が成功する可能性はないといえます。
・ 米国は今、豊富で安価な化石燃料の供給によって経済成長と安全保障を達成するというエネルギードミナンス(優勢)を築こうとしています。米国が進める脱・脱炭素による「1兆ドルの規制緩和」は奇しくも、日本のGX投資の総額である150兆円に概ね相当します。
・ 日本も、脱・脱炭素に舵を切り、脱炭素関連法を全て廃止して、GX戦略をはじめとする脱炭素政策を撤回すべきです(*12)。その中で、現行の再エネ賦課金は年間で総額2.7兆円(2024年度)、一家計あたり1万円以上にものぼります。GX戦略を見直すとともに、脱炭素を推進することによるコストを家計、企業に押し付ける再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)についても、廃止すべきです。
・ また、原発規制を、経済合理性を踏まえた適正なものにするとともに、電気事業制度を電力システム改革以前に戻すことで、原発再稼働・新増設の更なる推進を可能とし、米国との「エネルギードミナンス協定」の締結や、ロシアとの関係改善とともにエネルギー外交を推し進めるなどして、為替変動部分等は別としても、電力価格をまずは東日本大震災以前に戻すことを目標とすべきでしょう(*13)。
・ 安価で安定的なエネルギー・電力価格の実現することで、自由・民主・信仰の価値観を推し進める使命を有する日本の経済力・国力を高めることに寄与するものと信じるものです。
(*1) 2028年度から導入予定の化石燃料賦課金は、GX戦略法に基づく「成長志向型カーボンプライシング」の一つという位置付けであり、化石燃料を輸入・採取する業者(石油会社、電力会社、商社など)を対象に、化石燃料に含まれるCO2排出量に応じた賦課金を徴収するという制度によるもの。税法上の税という位置付けではないが、実質的には、排出されるCO2に価格をつける炭素税に近い性質を持つと言える。
(*2) 本間隆嗣「産業の国際競争力への影響と国境炭素調整の評価」((公財)地球環境産業技術研究機構(RITE) システム研究グループ)より。
(*3)「『全産業への画一的な脱炭素は非効率』慶大教授が警鐘!日本は米中と同じく“理念から現実”への政策転換が不可欠な理由 野村浩二・慶應義塾大学産業研究所所長インタビュー前編【脱・脱炭素の試練】」(ダイヤモンドオンライン, 2025年5月27日)より。
(*4)野村浩二・稲葉翔「ポストパンデミックのエネルギー価格高騰と実質格差拡大―主要7カ国の分析」(KEO Discussion Paper No.185)参照。
(*5)エネルギー集約型であり、貿易が多い産業はEITE産業と呼ばれる。(*2)(*3)など参照。
(*6)エネルギー多消費産業の生産水準の推移については、野村浩二「エネルギー多消費産業の日独衰退と中国躍進」(国際環境経済研究所)、野村浩二「主要国のエネルギーコスト負担とエネルギー多消費産業の動向」(内閣官房GX実行会議資料,p.13)などを参照。
(*7)杉山大志『脱炭素のファクトフルネス』参照。
(*8)現在、CBAMの対象品目となっているのは、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力であるが、今後、段階的に、原材料だけではなく加工品も対象とする案が欧州委員会から発表されている。
(*9)杉山大志「EUの炭素関税に過剰反応 排出量取引に潜む日本製造業の崩壊リスク」(エネルギーフォーラム)
(*10)杉山大志「トランプ関税は中国製PVを廃し米国エネルギー輸入で切り抜けよ」(アゴラ 言論プラットフォーム)
(*11)手塚宏之「ドイツの30年気候目標達成は喜ぶべきことか?エネルギー政策の他山の石」(アゴラ 言論プラットフォーム)参照。
(*12)関連する法律などは、杉山大志「脱・脱炭素法:史上最大の規制緩和で150兆円の経済効果」(キャノングローバル戦略研究所)参照。
(*13) 杉山大志他「非政府有志によるエネルギー基本計画(第6版)」参照。
以上
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