昨日、野田佳彦首相は、日本政府としてTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉に参加する方針を表明した。我が党はTPP交渉参加を是とするものだが、閣僚の中には首相の会見を参加表明ではないとの認識を示す者もいるなど、政権内で合意形成が十分になされておらず、交渉参加に向けた政府・与党の態勢作りには疑念を抱かざるを得ない。また、昨年11月9日の閣議決定「包括的経済連携に関する基本方針」では、TPPについて「国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」としておきながら、東日本大震災があったとは言え、民主党政権は以後、今回の参加表明に至るだけで丸1年もかけており、いたずらに時間を費やしている。
現在、交渉参加を巡っては、与野党ともいまだ甲論乙駁の状態ではあるが、そもそも我が国は米国に次ぐ経済先進国として、世界経済の発展に寄与すべく、新たな貿易秩序の形成に責任を有する立場にある。TPPについても、米国と並んでそのようなイニシアチブを発揮し、我が国の意見を積極的に反映させられるよう、できるだけ早期に交渉参加すべきであった。そして、我が国の国益の観点からしても、持続的な経済成長を遂げるため、国を開いて貿易・投資の自由化を推進し、立地競争力を強化するとともに、世界から優れた経営資源を取り込む必要があるのは論を俟たない。海外から「ヒト・モノ・カネ」を積極的に呼び込むことは、内需を盛り上げるばかりか、新たな付加価値を生む企業や産業の創出にもつながり、我が国の成長力の底上げに資するであろう。
個別論点として、国内農業保護の観点からの反対論が根強く見受けられるが、国内市場を高い関税で保護し続けたところで、担い手の高齢化や国内需要に比したコメの過剰生産等、日本農業の構造的問題が温存されるだけである。TPP参加を輸出競争力のある農業へと変革するチャンスと捉え、減反を廃止し、農地の集約や企業参入の促進などで生産性を高めるべきである。
国際政治的には、特に中国が経済的に台頭する中、日米を中心にアジア太平洋地域の資本主義・自由貿易のルールを形成する意味は大きく、そのルールを中国が採り入れるよう働きかけることで、間接的に中国の自由化・民主化を促す効果も期待できよう。またTPPは、単に経済上の問題にとどまらず、我が国の安全保障にとっても大きな意義を有している。中国などの軍事的脅威に直面する我が国にとって、日米同盟は安全保障の基軸であり、対外的な抑止力として大きく機能している。不況による財政難で米国の国防費に削減圧力がかかり、在日米軍の撤退も考えられる中、米国を自由貿易のパートナーとして相互に経済的に支え合うことは、米国の軍事プレゼンスの低下を回避し、世界秩序の維持や我が国の安全保障に寄与することにもつながるのである。
各国の国益・利害が衝突するTPP交渉に臨むにあたっては、各界各層への説明責任を果たすとともに、政治が指導力を発揮して、国内の合意形成に努めなくてはならない。しかしながら、本件に関しては、特定の圧力団体等の主張に引きずられ、数多くの与党議員が交渉参加反対に回り、ほとんどの野党も党利党略から反対に傾いているのは誠に遺憾である。〝内向き〟な政治のために、我が国の未来を閉ざしてはならない。政府には、TPPへの国内環境をいち早く整備し、国益をしっかりと見据えながらその交渉を進めるよう要望するとともに、我が党は日本のさらなる繁栄に向けて今後とも提言を行っていく所存である。
幸福実現党 党首 ついき秀学