「憲法改正―合区解消の問題点」
今回のメルマガは「憲法改正―合区解消の問題点」、すなわち、参院選挙制度の合区問題についてです。
現在、自民党は合区解消に向けて、憲法改正を検討しています。
そこで、自民党の言うように選挙制度について憲法改正は必要なのか。1票の格差をどうするか。自民党の合区解消に正当性はあるのか。参院はどうあるべきなのか。
様々な論点を考えてみたいと思います。
参院選挙での合区問題の概要。
もともと、参院の選挙区は都道府県を単位としてきました。
ところが、一昨年の夏に行われた参院選挙で、1票の格差を小さくするために「鳥取・島根」「徳島・高知」がそれぞれ一つの選挙区(合区)として選挙が行われました。
結果、4県の有権者からは、合区への不満が高まって投票率も低下し、合区解消の声が上がりました。
そして、昨年の秋、自民党は合区解消を公約に掲げ、衆院選挙を戦っています。
なぜ、合区問題が発生したのかというと、都市部に人口が集中するようになり、1票の格差が5倍前後まで膨れ上がったからです。
最高裁は、最初はある程度、1票の格差を容認していたのですが、「ねじれ国会」などで参院の影響力が強くなるにつれ、1票の格差が大きすぎると「違憲である」と判定し始めました。
解決策として、合区によって1票の格差を少なくしようとしたのですが、逆に4県からは反発が高まり、合区問題が発生したのです。
そこで、自民党は憲法を改正して、都道府県ごとに参院の代表を少なくとも1人は送れるようにしようとしているのです。
最高裁の態度の変容。
前述したように、最高裁はかつて、参院に地域代表的な役割を認め、都道府県を選挙区の単位とすることに合理性があるとして、衆院よりも大きな格差を容認してきました。
確かに交通網が未整備だった時代は、国会議員にとって、地域格差をなくすことは大切な役割の一つでした。
しかし、最高裁の認識は時代とともに「通信・交通手段が発達し、地域間の違いが少なくなった。参院に都道府県代表的要素を加味する必要性が著しく縮小した」と変わってきました。
参院の役割の希薄化。
また、参院は都道府県代表的要素がありながらも、大きな選挙区から選ばれており、本来「大所高所」から国家全体を見渡す国民代表的な観点を持ちやすかったと言えるでしょう。
良識ある府として、慎重に審議し、衆院の暴走や誤りをできるだけ防ぐことが参院の存在価値とされています。
ところが、選挙制度において、参院は地方区(都道府県)と全国区の代表、衆院はもっと小さな選挙区の代表と分かれていましたが、衆院での比例代表制の導入により、参院と衆院の差別化が無くなり始めたのです。
つまり、参院の独自性が制度的に失われつつあると言えるのです。
憲法47条に条文追加。
このような背景の中、自民党が提案している憲法改正の中身をざっくり見ると次のようになります。
「選挙に関する事項は、法律でこれを定める」とした憲法47条に「参院は改選ごとに各広域的な地方公共団体の区域から少なくとも1人が選出されるように定めることができる」という条項を追加。
さらに、広域的な地方公共団体を「都道府県」だと定めた条項がないため、憲法92条に「地方自治体は、市町村を想定した“基礎的”自治体と、都道府県を想定した“広域的”自治体の2層構造」とする規定を加えることも検討しています。
つまり、都道府県ごとに参院の代表を出せる根拠を憲法の中につくろうとしているのです。
すなわち合区解消ということです。(逆に1票の格差は拡大します)
アメリカの上院に似ている?
ここで、都道府県選出の参院議員となれば、アメリカの上院を思い出す人もいるでしょう。アメリカの上院は各州2人選出されます。アメリカは州でそれぞれ憲法を持っており、日本の消費税にあたる間接税も、全部、州内で決めます。州ごとに別の国ように法律が違うため、州代表の意識が明確にあります。ですから、連邦政府の上院に、州という国の代表という意識で選ばれるのです。翻って、日本の都道府県の権限は、連邦制の州の権限より弱く、アメリカなどの連邦国家の州並みに自意識と責任感を持てる環境かどうかは疑問があります。すなわち、都道府県ごとに参院の代表を出す意義が弱いと言えます。
自民党の本音の思惑。
ここで、自民党の本音の思惑を忖度しましょう。自民党は合区解消にこだわっています。
なぜなら、自民党は人口の少ない地方に基盤を持ち、都道府県単位の地方組織も強いからです。
都市部と地方の人口格差が広がれば、合区対象県が増え、地方選出の議席数が減るという危機感を持っています。
本当は定数増をすれば、比較的簡単に1票の格差が縮まります。
そのためには、公職選挙法だけを改正すれば良いので、本音ではそうしたいのですが、議員増は世論の反発を受けるので、それはできないでいます。
そこで、合区解消のため、都道府県から少なくとも1人を選出することを規定する憲法改正を言い始めたのです。
1票の格差が問題になるのは、憲法が「法の下の平等」を求めているためです。
ゆえに、憲法の中で「都道府県単位で1人以上を選ぶ」とすれば合区は認められず、一定の1票の格差も許容されるという寸法なのです。
自民党が強い地方の1人区選出議員を、合区によって減らさされることが嫌なのです。
これが本音であることを知って欲しいですね。
1票の格差をなくすブロック選挙区。
実は、本当に1票の格差をなくすためには、都道府県ごとの選出よりも、東北、中部、近畿、四国、九州などのブロック選挙区にして、人口比に合わせた定数を割り振ることで可能となります。
維新系などはブロック選挙区を主張しています。
ただ、維新系は道州制とセットの考え方をしているようなので、注意が必要です。(幸福実現党は道州制には反対しています)
幸福実現党は参院についてどう考えるか。
いろいろ述べましたが、幸福実現党は参院についての考え方を述べさせていただきます。
まず、参院が必要であれば、存続しても良いと考えています。
「衆議院だけでは、どうしても信用できない。やはり、二院制によって慎重に検討すべきだ」ということであれば、衆院のコピーではなく、参院のあるべき姿をしっかり検討したうえで、二院制を維持して良いと思っています。
現在の参院は行政効率の妨げになっている。
しかし、現在の二院制、つまり参院の存在は「行政効率を非常に妨げるものになっている」と言えます。
例えば、衆院と参院において、違う人を首相に指名したりしています。
また、与党に対して必ず反対をする野党勢力が参議院の多数を占めている場合には、国会がほとんど機能せず、法案が通らないため、行政の遅滞を生む状態が現出します。
参院を廃止しても良い。
このように存在悪となっている参院ならば、無くしても良いと考えています。
「民意を反映する」ということであれば、投票で選ばれた国会議員で構成する一つの議会(衆院)で決めてもよいのではないでしょうか。
財政赤字も大きくなっていますので、議員の数が減ったら、その分だけ財政赤字も減ります。
参院を廃止すれば、スピーディーに物事が処理できてよいでしょう。
その場合は、衆院議員のなかで、得票率が上位二割ぐらいに入っているような人は、解散後にも残って審議ができるようにし、参議院の役割をカバーできるようにしてもよいでしょう。
上位当選をした一定数の人たちは、参議院の役割の部分を果たせるようにすることもできます。
参院が必要かを国民に問いたい。
しかし、参院を廃止するには憲法改正が必要なため、すぐには廃止になりません。
ただ、「参議院が必要なのかどうか」ということに対して、国民に対して民意を問う必要はあると思います。
繰り返しになりますが、衆院、参院と二つあって、これが有効に機能していればよいのですが、与野党の「ねじれ現象」が起きた場合、現実には政争の具になってしまいます。
要するに、日本の政治の効率的なものを妨げていることが多いので、「こんな参院だったら要らない」ということです。
根本から見直す時期。
戦後、日本国憲法に則して二院制でやってきましたが、参院は衆院とやっていることは変わりません。いわゆるカーボンコピー状態です。
もっと言うと、国政停滞という弊害になっている場合もあります。
したがって、私たちは「参院廃止」を問題提起して、「この国のあり方そのものを、根本から見直そうではありませんか」ということも言いたいのです。
「本当に必要なものかどうか、もう一度、考えてみようではありませんか。小さな政府、機動的な政府をつくらなければいけないのではないでしょうか」ということを訴えています。
もし参院を存続させるなら。
「良識の府」という意味で、参院を存続するのであれば、少し違う原理で参院議員を選んでもよいのではないでしょうか。
参院では、衆院とは違う原理で、しっかりとした識者を選ぶようなかたちであってもよいと思います。
賢人会議。
本当に有識者を集められるような参院、要するに「出たい人」ではなく、「なってもらいたい人」を集められるような参院なら、機能する可能性はあります。
今のようなかたちの「出たい人」を集めるだけの参院だったら、衆院と別に変わりません。
たとえば、賢人会議によって推薦された人が立候補し、一定数の得票を得れば政治家になれようにすることもあり得ます。
このようにすれば、政治家のレベルは上がると思います。
参院廃止、もしくは徳ある人を選出する。
ということで、わが党としては「国政の妨げになるならば参院は廃止すべきだ。
しかし、“良識の府”としての存在価値を出して存続するならば、選出の仕方に特徴を出して、“徳ある人”を選べるようにするべきだ」と考えます。
廃法府はいかが。
また、参院を「廃法府」とすれば、存在意義があるかもしれません。成立してから何年か経った法律の見直しをして、廃止できるようにします。
法律の数が増えれば増えるほど、国民の「自由」の領域は減っていきます。
したがって、不必要な法律を廃止していくことが大事です。
参院の権能を見直す議論ぐらいは必要。
とにかく、自民党の合区解消に向けた憲法改正案においては、憲法14条に由来する投票価値の平等を衆院にだけ厳しく適用し、参院で緩めるということになります。
少々、理屈が通らないと言えるでしょう。都道府県単位を優先し、平等を犠牲にするのであれば、参院の権能を見直すことは避けられません。
わが党の提言の他にも、例えば「衆院の優越する範囲を広げ、参院は行政監視の府に再構築すればどうか」という議論もあります。
このように、合区解消の議論は本来、「統治機構の見直し」とワンセットで行われるべきでしょう。
そのような根本的な議論をおろそかにして、自民党の憲法改正が「1人区」温存目当てだとすれば、ご都合主義と言われても仕方がないでしょう。
現実案としては。
ただ、現在の1票の格差問題や合区問題について、何らかの現実的な手を打つとするならば、次のような現実案も考えられます。
私たちは、衆院も含めての現在の選挙制度はあまり良くないと考えています。
その代表が衆院の小選挙区制です。小選挙区制は、利益誘導がやり易く、小人物が出やすい選挙制なのです。
したがって、私たちは中選挙区制に戻すべきだと提言しています。そこで、衆院の小選挙区の弊害を、参院で取り戻すことを考えても良いのではないでしょうか。
参院は東海、近畿、九州などのブロック選挙区にして、中選挙区制のように定数を複数にすれば良いと考えます。
都道府県別の選挙区だと定数1の選挙区が多くなり、小選挙区制と変わらなくなります。ただ、ブロック選挙区は道州制とは連環しません。
これで、とりあえず、1票の格差問題や、合区問題も解消することになるでしょう。まあ、次善の策ですが。
合区解消に向けての憲法改正は。
とうことで、自民党案の合区解消に向けての憲法改正は、時代の変化に合わせた改革ではなく、一時しのぎの“誤魔化し”とも言えます。
一部の県だけを合体させるのは中途半端でしょう。
もっと根本的に、もっと大胆に変革して、大人物、徳ある人が選ばれるような選挙制度にしていくべきなのではないでしょうか。
2、編集後記
一連の憲法改正の動きを検証してみると、意外と浅薄な議論に終始しているとも言えます。
物事の本質から考えることが少ないからでしょうか。
やはり、宗教や哲学から答えを導き出すという重厚さが必要な時代になってきているような気がします。
◆ 江夏正敏(えなつまさとし)プロフィール
1967年10月20日生まれ。
福岡県出身。東筑高校、大阪大学工学部を経て、宗教法人幸福の科学に奉職。
広報局長、人事局長、未来ユートピア政治研究会代表、政務本部参謀総長、HS政経塾・塾長等を歴任。
幸福実現党幹事長・総務会長を経て、現在、政務調査会長。
◆ 発行元 ◆
江夏正敏(幸福実現党・政務調査会長)
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