幸福実現党政務調査会
2023年3月20日
No.30
岸田政権が目指す「次元の異なる少子化対策」
2月28日、厚生労働省は2022年の出生数(速報値)が前年比5.1%減の79万9728人だと発表しました。日本では出生数の低下傾向が長らく続いており、推計では、出生数が80万人を割るのは2033年ごろと推計していましたが、11年も前倒しになる結果となりました。コロナの影響で経済的な不安が高まったことが一因とみられます。
少子化が進展しているのは、婚姻率と出生率のいずれも減少しているからです。結婚するか、子供を持つかという選択は個々人の価値観によるもので、国家が関与するべき性質のものではありません。しかし、政治としては、できるだけ子供を持つことを諦めなくても良い環境を作るよう努めるべきでしょう。
岸田文雄首相は、今年1月の施政方針演説で、次元の異なる少子化対策を実施するとして、⑴児童手当などの経済的支援の強化、⑵学童児童や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、⑶働き方改革の3本柱を実施するとし、3月までに政策のたたき台を作成するとしています。
本稿では、特に児童手当など給付策に焦点を当てて、議論いたします。
児童手当拡充などバラマキありきの対策には、疑問符をつけざるをえない
児童手当は、中学生以下の子供を育てる保護者に対して、現金を給付する制度で、世帯主の年収が960万円未満の世帯は、0-2歳児の子供一人当たり1万5000円、3歳児から小学生は1万円(第3子以降は1万5千円)、中学生は1万円が支給されます。また、世帯主の年収が960万円以上1200万円未満であれば、一人当たり一律5000円に支給額が抑えられ、1200万円以上なら支給がない、という枠組みとなっています。
児童手当の拡充をめぐっては、与野党より、「所得制限を撤廃すべき」「多子世帯への加算を増額すべき」「支給対象を拡大すべき」といった声が上がっています。
しかし、児童手当の拡充が本当に少子化の歯止めに寄与するのでしょうか。
子供が産まれてから大学を卒業するまで、2000万円程度がかかるとも言われますが、現在、満額で200万円程度受け取れる児童手当を多少拡充したところで、果たして「子供を産み育てる」という意思決定に影響を与えうるとは考えにくいのではないでしょうか。特に、世帯主の年収が1200万円以上の世帯は経済的事情で子供を産んでいないとは考えにくく、給付策拡大は単なるバラマキと化すことになるでしょう。
結局、給付額が増えた分は、子供の数を増やすのではなく、私学の学校に入れたり、高額な塾に通うことに使われるなど、子供一人にかける教育を充実させるとの結果に終わりかねません。
優しすぎる社会は、地獄への道
子ども予算の一環として、岸田首相は今月17日の記者会見では、産後の一定期間に男女で育休を取得した場合、給付率を手取りの10割に引き上げるとの方針を明らかにしました。この給付拡充には数百億円はかかるとされています(*1)。効果が不明確な施策に大金を注ぎ込むべきではなく、そもそも、会社に行こうと行かまいと、同じ給料が出るように政府が手を差し伸べることは、お節介の度が過ぎているのではないでしょうか。
岸田首相は、「子ども予算を倍増する」としていますが、子どもに関連する予算には、家族関係支出(10.8兆円、2020年度)、少子化対策関連予算(6.1兆円、2022年度)、子ども家庭庁の予算(4.8兆円、2023年度)とあり、「倍増」は何を基準としているのかは不明確です。
子ども予算倍増には、財源も明示されていません。税金のほか、年金、医療などの社会保険料の活用も検討されていますが、いずれにしても、バラマキの見返りに、国民は莫大な負担を負うことになります。社会保障の充実のために自由を犠牲にしてはなりません。優しすぎる社会は、地獄への道でもあるのです(*2)。
(*1)「『産後パパ育休』の拡充、新たな財源に数百億円? 実現いぶかる声も」(朝日新聞デジタル, 2023年3月18 日付)より。
(*2)「月刊 幸福の科学(2023年3月号)『心の指針219 優しすぎる社会』」より。
少子化対策の観点①経済見通しを良くする
与野党が主張する児童手当の拡充のための予算は、制度設計にもよりますが、少なくとも数兆円を要するとされています。繰り返しになりますが、それは、いずれの時点で必ず、増税など国民負担を伴うことになります。
国民所得に占める税と社会保険料の割合を示す国民負担率は現在、46.8%(2023年度,見通し)となっています。少子高齢化による社会保障給付費の増大などから、国民負担率は将来、56.4%(2035年度)、71.6%(2050年度)になると推計されています(*3)。児童手当の拡充を行えば、国民負担率の拡大に追い討ちをかけることになります。
個人がお金を儲けても、その多くが政府に「持っていかれて」、生活が苦しくなる未来が目に見えているのであれば、子供を持つことに躊躇する夫婦は必ずいるはずです。子供を産み育てやすくする環境を整備するために欠けてはならない観点は、政府の無駄遣いをなくして減税の余地を作り、国民負担の軽減に努めることです。
そして、製造業をはじめとする日本の企業は今、「稼ぐ力」を失い、給料を上げる余力に乏しいというのが現状です。政府としては、減量を前提とした法人減税や規制緩和、原発再稼働等による電力料金の低下で企業が活動しやすい環境を整えるほか、人材が成長分野に集中しやすくするなどの観点からも労働の流動性を高めるべきです。
(*3)鈴木亘『社会保障亡国論』(講談社現代新書)より。
少子化対策の観点②教育費を軽減する
経済的な観点だけから見ると、子供を持つかどうかを決めるのは、雇用や給与水準に影響を与える将来的な経済見通しと、子供を持つ場合にかかるコストの比較考慮によるものでしょう。
韓国では、多子世帯に対する所得控除制度が組まれるなど、税や社会保険を優遇するといった形で子育て支援策が実施されていますが、同国の出生率は0.78(2022年)と、日本よりも深刻な事態に陥っています。その要因の一つとして挙げられているのは、高い教育費です。韓国は日本以上に高学歴社会であり、一人当たりにかける教育費も高い傾向にあります。
韓国の例が示すインプリケーション(推察されるもの)は、少子化に歯止めをかけるためには、子供を育てるためのコストを低下させるべきということです。
やはり、日本のアンケート調査で「夫婦が理想の数の子供を持たない理由」として、77.8%が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」との結果が出ています(*4,5)。
親が公立の学校に満足できずに、教育の質を塾や私学に通うことで補完し、教育費を高めているのが現状です(*6)。教育費を軽減するには、公教育の復権で、一人当たりに費やされる教育費が安くても、高水準の教育が受けられるようにすることが肝要です。
(*4)国立社会保障・人口問題研究所「第16 回出生動向基本調査」より。
(*5)アンケートの回答は、35歳未満の女性によるもの。
(*6)「児童手当、増額の勘所 所得制限の是非・財源は?」(日本経済新聞(電子版), 2023年2 月20 日付)より。
少子化対策の観点③社会保障と家族観の見直しを
社会保障の拡充で、国民が「老後は家族の代わりに、国家が面倒を見る」という価値観に変容し、これが家族の役割を低下させ、少子化につながっている。こうした観点も無視できません。
日本の社会保障制度は1960年代以降から整備され、「福祉元年」と言われる1973年には、年金給付費が大幅に引き上げられました。
「子供を持つ理由」を問うアンケート調査において、「子どもは老後の支えになる」ためとする回答が、1972年には50%近くを占めていたのに対し、2021年には15.5%に低下しており(*7,8)、社会保障が充実化する前に比べて、今は「老後の支え」のために子供を持つという意識は希薄化しています。
年金制度は今、実質上「賦課方式」が採られており、自分が受け取る年金は、自分の子どもだけではなく、現役世代全般に支えられているという構図となっています。子供を持たずとも、老後は生きていけるという社会になれば、子供を持とうとする意識が薄くなるのは必至ではないでしょうか。
そして、賦課方式の年金制度が必然的に少子化を招くことは、年金財政そのものを危機に追いやることになります。
少子化に歯止めをかけるためには、年金をはじめ、社会保障制度の抜本改革を行うべきであり、同時に、「家族の面倒は家族で見る」という家族観を復活することも、重要な視点ではないでしょうか。
(*7)国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」より。
(*8)小峰隆夫他『実効性のある少子化対策のあり方』(経団連出版), 山重慎二『家族と社会の経済分析』参照。
以上
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PDF バラマキありきの対策では、少子化に歯止めはかからない
バラマキありきの対策では、少子化に歯止めはかからない 幸福実現党政務調査会 ニューズレター No.30(2023.03.20)