減量なき減税・給付金は、物価高を助長させる

幸福実現党政務調査会ニューズレター No.35(2023.10.22)

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ポイント

  • 与野党が提示する「歳出カットなき減税・給付金」は、国民の生活を苦しめる帰結となる。
  • 減税は、社会保障の抜本改革など「小さな政府」化を推し進めることを前提に。
  • 原発の即時再稼働などで電気代を引き下げることが、生活や産業を守ることにつながる。
  • 給料アップに向けては、日本企業の国際競争力向上のための環境整備こそ必要。

 

政府は10月中に経済対策をまとめる

岸田文雄首相は「物価高を乗り越える」として、10月中に経済対策をとりまとめると表明しています。その上で、「経済成長の成果である税収が増えた分を国民に適切に還元すべく、対策を実施したい」としており、所得税の期限付きの減税と低所得者向けの給付金を検討するよう、自民・公明両党に指示しています。また、野党からも同じく、給付金策や減税を実施すべきといった声が挙がっています。

果たして、与野党が提示する経済対策を、どのように見るべきでしょうか。

 

(図1)現在明らかになっている与野党の経済対策(一部)(*1)

自民 公明 立民 維新 共産 国民民主
消費税 現状維持 一律8% 一律5%、廃止目指す 一律5%
所得税 時限付きの減税へ 最高税率引き上げ 引き下げ
法人税 引き下げ論 減税に否定的 28%へ引き上げ 引き下げ
給付策 低所得世帯への給付金支給へ 家計への直接給付 社会保険料下げ 中小・小規模
事業者に給付
ガソリン税 補助金で対応 トリガー条項の凍結解除 旧暫定税率の
廃止
旧暫定税率の廃止

(*1)日本経済新聞(2023年10月11日付)「与野党、減税前面の『新たなバラマキ』社保改革棚上げ」などを参考に作成。

 

物価高の背景は

物価上昇の要因は、下記の図表2のように大別することができます。

 

(図表2)物価上昇の主な要因

ディマンドプル・インフレ 景気回復などで人々の購買意欲が高まるなど、需要(ディマンド)側の増加で生じる物価上昇
コストプッシュ・インフレ 原材料価格の高騰など生産者にとってのコストが上昇した分を価格に転化することで生じる物価上昇
貨幣数量説 物価水準は、貨幣供給量(マネーストック)の生産量との相対的な大きさによって決まるとする考え方。貨幣の流通速度が一定ならば、生産能力以上に貨幣供給量が増加すれば、物価は上昇へ向かう
期待インフレ率 家計や企業が、将来の物価が上昇すると予想すれば、買い占めなどの行動がとられ、将来の実際の物価が上昇する

 

経済において、需要と供給とのバランスで価格と取引量が決定するように、物価や経済規模も、経済全体の需要(総需要)と供給(総供給)で決定されます。コロナ禍以降、世界的な物価上昇局面が続いていますが、これは概して言えば、世界的な生産や物流網の停止、サプライチェーンの寸断、労働者の退出などにはじまり、そこにエネルギー価格や穀物価格の急激な上昇が拍車をかけたことによるものと言えます。特に、日本の場合は、円安が輸入物価の上昇に拍車をかけ、企業物価、消費者物価の上昇につながってきました。これはまさにコスト・プッシュ型の物価上昇と言えます。

また、貨幣供給量の増加も物価高に寄与しているでしょう。下記の図表3は、日銀が世の中に直接的に供給する資金(ベースマネー)と、国や金融機関以外の民間部門が保有する貨幣量(マネーストック)の推移を表します。特にコロナ禍以降、マネーストックが、急上昇しています。これは、「ハイパーケインズ主義」として、政府が特別給付金をはじめとする巨額の財政投入を行ったほか、実質無担保無利子融資をはじめ、金融機関が企業への融資を拡大させたことなどが背景にあります。これで「値上げの許容度が高まった(*2)」訳ではないものと思われますが、少なくとも、手元の資金が増えたことで、需要が押し上げられたことは言うまでもありません。

(*2)黒田東彦日銀総裁(当時)は2022年6月の講演で「コロナ禍における家計の強制貯蓄で家計の値上げ許容度が高まった可能性がある」との旨発言した。

 

(図表3)2011年1月以降の日本のベースマネーとマネーストック(M3)の推移(*3)

 

減量なき減税・給付金は、物価高を助長させる01

(*3)日銀資料より筆者作成。

 

減量なき減税・給付の行く末は、物価高の悪化

ここ数年、総需要が総供給を下回るデフレギャップが存在したことを根拠に、日本政府は「金額ありき」のコロナや物価高に向けた経済対策を実施してきました。しかし、現在、内閣府の推計に基づくと、デフレギャップは既に解消したとされています(*4)。

与野党は、減税、給付策を実施すべきとしていますが、政府が歳出をカットする「減量」なしに、これらを行えば、需要の拡大で、物価高は収まるどころか、むしろ悪化することにつながります。「期限付き減税」にしても、需要の過大な集中を招くことで物価高に加速度がつく恐れは、否定できません。

さらに、物価上昇は、貨幣の面から言えば、「お金の価値が低くなる」ことを意味します。各党が述べるような、「減量」なしの減税などをすれば、国民は、持っている現預金、債券の実質的な価値が低下して、「インフレ税」を払わされることになります。

政府が、巨額の債務を抱える中、税収の増加分を財政の健全化に充てようとしていないことにも問題があります。これは、家のローンがあるのに、臨時収入を返済に充てず、浪費に使うことと同じです。目先の減税を行い、少子化対策などの財源は別途探そうとするつもりなのでしょうか。

(*4)内閣府の推計値によると、2023年4―6月期(第二次速報値)のGDP ギャップは+0.1 とされる。

 

対策は本来、コストを抑える方向に絞るべき

物価高を是正するためには、政府は本来、事態の悪化を招くバラマキ政策は行わず、あくまで生産力を高める方向のものに絞るべきです。

「必需品」と言える電力の価格高騰は、特に低所得者層の生活苦、また、企業にとっての生産コストの増大を招いています。電気代が高騰しているのは、エネルギー価格の世界的な高騰と円安、そして、電気代に再生可能エネルギーを推進するためのコストを上乗せする、固定価格買取制度(FIT制度)によるものです。状況の悪化を招いているのは、政府による脱炭素政策の推進と、原発再稼働の遅れで化石燃料に依存せざるを得ないことに原因があります。

また、現在、イスラエル・ハマスの衝突で世界に緊張が走っていますが、例えば、ハマスを支持するイランが欧米に対する制裁として、ホルムズ海峡を封鎖することなどは考えられなくもありません。そうなれば、原油輸入量のうち9割以上を中東に依存し、その大半がホルムズ海峡を通過して日本に入ってくることから考えても、日本にとって原油の供給途絶リスクもないとは言えません。

政府は、安価で安定的な電力を確保するために、原発の速やかな再稼働を進めるべきであり、同時に、脱炭素政策とFIT制度の見直し、さらには、エネルギー安全保障の観点から、ロシアからの原油輸入を解禁すべきです。物価高を助長しかねない、低所得者層への給付金などではなく、電気代高騰を抑えることこそ必要です。

また、台湾有事が表面化するなどすれば、日本は一層のエネルギー危機のほか、更なる食糧危機に陥ることになりかねません。食糧危機に備えては、まず、事実上継続しているコメの「減反政策」を廃止して、コメの生産力を強化しなければなりません。これは生活必需品としてのコメ、食品の価格低下に寄与するものです。

*ガソリン価格の高騰への対処については、政調会ニューズレターNo.34「ガソリン価格の値下げに向けて、政府は根本対策を打つべき」(https://info.hr-party.jp/2023/13643/)をご覧ください。

 

円安にはどう対処すべきか

輸入物価を押し上げている大きな要因が円安です。コロナ禍以降、当初は各国・地域の中央銀行は「超金融緩和」を進めたものの、インフレに直面して緩和策のテーパリング(量的緩和の縮小)、利上げを行いました。その中で、日本だけが“黒田バズーカ”以降の緩和路線を継続しています。

結果として、円はあらゆる紙幣に対して安くなる方向となっています。物価変動を考慮した上で、対象となる全ての通貨と日本円との間の通貨間為替レートを示し、通貨の実力を測る「実質実効為替レート」は53年ぶりの低水準となり、1ドル=360円の時代と同じ水準となっています。「安い円」となった結果、交易条件(貿易での稼ぎやすさ)が悪化し、日本の所得の国外流出(交易損失)が発生しています。尚、近年は、日本企業の製造拠点の海外転出が相次いだことにより、円安により輸出が増える恩恵が受けにくくなっています。

円とドルの関係で言えば、最近の円安・ドル高傾向は、日銀と米FRBの金融政策の方針の違いにより生じる金利差から説明できます。

日本が円安を是正するために、金融緩和路線の軌道修正を図ることができるかといえば、簡単ではありません。それは、国債金利の上昇(国債価格の下落)により、政府の国債利払費が増加して、財政状況を一層悪化させる一方、日銀が資産として保有する国債の価格下落で、債務超過に陥るからです。日銀の債務超過は、日銀が発行する円の「信用」失墜にもつながって円売りが進み、更なる円安に振れる可能性もあるでしょう。

日銀が政策の転換を図るためには、まず、「政府のアンバランスな歳出による構造的赤字→発行された国債は間接的に日銀が買い取る」という構図からの脱却を図らなければなりません。そのために、政府はバラマキ体質から脱却を図らなければなりません。

 

必要なのは、日本経済の底上げ

本来考えるべきは、党利党略ではなく、国民の生活を良くすることに他なりません。物価が上昇する中、賃金も同様に上がらなければ、生活は苦しくなりますが、さらに、税や社会保険料負担が増えれば、国民の生活はますます苦しくなります。図表4は、「実質可処分所得」(*5)の推移を表していますが、増税・社会保険料の負担増や近年の物価高により、現在のこの値は、10年前の水準とほとんど変わっていないことがわかります。

(*5)個人所得の総額から税や社会保険料を引いて、個人が自由に使える「可処分所得」に物価上昇分を加味したもの。

 

(図表4)実質可処分所得の推移(*6)

 

減量なき減税・給付金は、物価高を助長させる02

(*6)内閣府データより筆者作成。

 

経済対策で無駄なバラマキを行えば、物価高を助長すると同時に、国民負担も増大させることから、国民をますます貧しくしかねません。

現在、国民所得に占める税・社会保障負担である「国民負担率」は46.8%(2023年度,見通し)であり、財政赤字を含めた「潜在的な国民負担率」は53.9%(同)に達しており、高齢化の進展で、今後さらなる負担率の増大が懸念されています。

今、行うべきは、岸田政権下の無駄な少子化対策を止めるほか、高齢化の進展による社会保障費の一層の増大を抑えるために、社会保障制度の抜本改革を行うことにほかなりません。

では、賃上げはどう進めるべきなのでしょうか。日本の給料は今、各国と比較しても低い水準にあり、韓国の平均賃金をも下回っている状況にあります。

最近の低賃金の背景には、労働生産性の低下や非正規社員率の向上が指摘されています。日本企業は近年、国際競争力、「稼ぐ力」の低下が叫ばれていますが、その背景には、日本政府がこれまで行ってきた巨額のバラマキが、旧来の需要を喚起し、産業の新陳代謝や既存企業による新産業投資を阻害した面は否定できません。

政府は賃上げを実施する企業の税負担を軽減する「賃上げ税制」を実施し、今、これを拡充しようとしています。しかし、企業にとっては、目先の税負担を軽減できるからといって、簡単に賃金を上げられるものではないでしょう。賃上げが十分ではないからといって、補助金を配ったり、税制で無理やり賃上げを達成しようとすべきではありません。そもそも、企業が決める賃金の水準に政府が介入しようとする姿勢自体、社会主義そのものと言わざるをえません。減量を前提とした減税や規制緩和で、企業が活動しやすい環境を整えることに徹すべきです。こうした環境整備こそ、日本企業の製造拠点の国内回帰を推し進めることにもつながるのではないでしょうか。

また、労働の流動性を高めて人材の新産業への移行を進めるほか、企業が正規社員をより積極的に登用することにもつなげるために、金銭解決の法制化を含め、解雇規制の緩和を推し進める必要があると考えます。

 

以上

 

 

幸福実現党の経済対策(一部)

◯物価高を助長する、歳出カットなき減税、給付金策は実施しない。

◯社会保障制度の抜本改革を実施するなど、政府の「減量」を前提に、シンプルで安い税金を実現。二宮尊徳精神の復活と、国民負担率の低下で「勤勉の精神」を取り戻し、国全体として生産力の底上げを。

◯エネルギー価格の押し上げ要因となっているウクライナ戦争の早期停戦を呼びかけるとともに、ロシアへの経済制裁を解除。歳出削減を前提に、ガソリン税の旧暫定税率部分の廃止と、二重課税状態の是正。

◯原発再稼働を速やかに進めて電気代を引き下げ、家計や企業の負担を軽減。再エネ固定価格買取(FIT)制度の撤廃と、脱炭素政策の根本的な見直し。

◯実質上のコメの生産調整、減反政策の廃止と、大規模化の推進による生産力拡大で、食糧安全保障の強化と食料の価格低下を促進。

◯労働の自由を奪う「働き方改革」を見直して労働力を確保。労働生産性向上に向けて、雇用の流動性を確保すべく、金銭解決の法制化を含めた、解雇規制の緩和を推進。

 

【全文】

詳細は下記のPDFをご覧ください。

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